自賠法3条本文は「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定しています。
上記の規定から、運行供用者責任が発生するためには「他人」に損害が生ずることが必要とされていることがわかります。
この「他人」について、判例は、「自己のために自動車を運行の用に供する者および当該自動車の運転者を除く、それ以外の者」(最判昭和42年9月29日・判時497号41頁)と定義しています。
したがって、運行供用者と生計を共にする妻や子であっても、「他人」に当たりますし、友人の車に乗せてもらっている際に交通事故にあったような者(いわゆる好意同乗者)も「他人」に当たります。
このような判例の定義によれば、運行供用者と運転者は「他人」に該当する余地はないように思われます。
しかし、現在の判例は運行供用者であれば一律に「他人」にあたらないと判断しているわけではありません。
最判平成9年10月31日・民集51巻9号3962号は、代行運転を依頼した者が、代行業者が運転する自己の自動車に同乗中に交通事故にあった事案において、代行運転を依頼した者も運行供用者に当たるとしながら、その者は「他人」に当たると判断しました。
上記判例は、自動車の所有者は、第三者に自動車の運転をゆだねて同乗している場合であっても、事故防止につき中心的な責任を負う者として、右第三者に対して運転の交代を命じ、あるいは運転につき具体的に指示することができる立場にあるのであるから、特段の事情のない限り、右第三者に対する関係において、法三条の「他人」に当たらないとしつつ、代行依頼者が事故発生の危険を回避するために代行運転者に運転の代行を依頼したことにより、運転代行者が代行依頼者に対し、代行運転する車両を安全に運行する義務を負ったという両者の関係からすれば、代行依頼者の運行支配は代行業者の運行支配に比べて間接的、補助的なものにとどまっていることから、本件では特段の事情が認められると判示しています。