自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」といいます。)3条本文は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。」と規定しています。この規定は、運行供用者責任と一般に呼ばれています。

 その目的は、自動車の運行によって人の生命又は身体が害されるのを防止するとともに、自動車運送の健全な発達を図る点にあります。

 その観点から、 同条項は、民法の不法行為責任(民法709条)の特則として規定されました。

 以上述べたことからすると、運行供用者責任は、交通事故に遭った者を厚く保護するといえますが、他方で、運行供用者に当たる者は、思いがけず運行供用者責任を負うことになります。

 そこで、いかなる者が運行供用者に当たるのか、注意を喚起する上で若干述べていきたいと思います。

 まず、自己が所有する車を他人に一時的に貸した場合、その貸主は、運行供用者に当たります。そのため、借主が交通事故によって、他人の生命又は身体を害した場合、貸主は、運行供用者の責任を負う場合があります。判例でも、車の所有者が友人に、休日のドライブのために一時的に車を貸し、その友人が過失により交通事故を起こした場合について、車の所有者は運行供用者に当たるとされています(最判昭48.1.30)。

 では、自己が所有する車を盗まれた場合(いわゆる泥棒運転の場合)はどうでしょうか。

 この点、泥棒運転の場合、原則として車の所有車の運行支配は失われるので、所有者は運行供用者責任を負いません。

 ただ、公道上にエンジンキーをつけたままドアロックせずに駐車していた場合の泥棒運転については、注意が必要です。判例も、車を路上に駐車させ、キーを差し込み、ドアロックをせずに半ドアのまま放置したところ、泥棒運転された事案につき、車の所有者が運行供用者に当たるとしています(最判昭57.4.2)。

 したがって、車を駐車する場合には、キーを身に着け、しっかり施錠するよう注意が必要となります。

 以上、運行供用者の責任について述べてきました。機会があれば、また、注意点を紹介していきたいと思います。

 

参考文献:「交通事故損害賠償法」(北河隆之・弘文堂)

弁護士 大河内由紀