皆さんこんにちは。
今回は、裁判例の紹介をしたいと思います。紹介する裁判例は名古屋地裁平成13年5月25日(自保ジャーナル1429号)です。
この事件は、原告は交通事故当時31歳の男子消防士で、交通事故により右上下肢麻痺等自賠責7級4号の後遺障害を負い、労働能力の喪失が認められるとして後遺症による逸失利益を求めた事案です。
原告は、本件事故前年の平成6年の年収が約631万で、本件事故後、平成8年10月末に職場に復帰し、職場内で配置変更を受けて4年以上稼働し、平成9年の年収が約613万で、事故前の平成6年の年収の約97%を維持していることが認められていました。
判例上、逸失利益とは、後遺症がなければ得られたはずの収入から、後遺症が残った状態での収入を差し引いた差額のことを言うと考えられています。このような逸失利益の考え方からすれば、被害者が公務員や大手企業の場合には、配置転換などにより、事故前の収入が維持される場合があり、このような場合、逸失利益はないということになってしまいます。本事例も事故前と事故後の収入に差がなく逸失利益はないということになってしまいそうです。
しかし、後遺障害が残ってしまった被害者がこのような事に納得できないことは当然ですし、通常の感覚からしても違和感があると思います。本事例ではどのように判断したのでしょうか。
裁判所は、事故前と事故後の収入がほぼ変わらないのは、事故から平成9年までの間に昇給昇格が行われているからであり、事故がなければもっと早く昇給していた可能性があると認定しています。また、本件事故がなければ管理職となる可能性も相当程度あったが、今後は管理職への登用は困難となったと指摘しました。さらには、後遺障害により原告は労務遂行の巧緻性や持続力において平均人より著しく劣る状態、あるいは事務系の比較的軽易な仕事しか遂行し得ない状態にあるので、原告が地方公務員の職にあるからといって安易に本件事故により後遺障害によって退職となる可能性はないと断言することはできず、事故時の収入が少なくとも定年まで維持されて減収がないとまではいえないと認定しました。
以上のように、事故前と事故後の収入が異ならないものであったとしても、このような裁判例を参考にして適正な逸失利益を求めていくようにしたいですね。
それでは、また。
弁護士 福永聡