皆様、こんにちは。
 今回と次回、示談交渉と示談契約についてみてみたいと思います。

 示談とは、一般的には裁判外において民事上の紛争を解決することをいいます。
 交通事故に関していうと、加害者が損害賠償として一定額の金員の支払を約するとともに、被害者がその一定額の支払を受けることで満足し、それ以上の損害賠償については、事後一切の請求をしない(権利放棄条項)との合意を意味します。

 示談の法的性質は、責任の有無・損害額・賠償の範囲等に争いがあり、双方がお互いに譲歩した結果であれば、民法上の和解契約(民695条)に当たりますが、そのような争いが存在せず、また双方の互譲がない場合には、和解類似の無名契約ということになります。

 訴訟による場合、手続進行や厳格な証拠調べ手続などから解決までに相応の時間と費用がかかります。それに比べると示談は、双方が譲歩し円満に交渉が進むのであれば、容易に迅速な解決が得られることとなりますし、交渉を自分で行えば、代理人を利用するなどの費用も掛からず、かつ手続利用のための費用も必要となりません。
 一方で、当事者間に交渉力の差が存在する場合には、専門的知識・経験を有する相手方により一方的に不利益な内容に譲歩させられるという危険性があります。相手方が保険会社の示談担当者など事故処理の専門家に委任した場合には、対等に交渉を進めることができるように、被害者側としても専門家に依頼することを検討されるのがよいと思われます。

 示談交渉の開始時期は損害の確定を待って行うのが普通です。

 死亡事故の場合には、理論的には事故発生時に損害が確定しており、損害額算定の問題だけが残されるのが通常ですから、いつでも交渉を開始しうる状態にあるといえます。賠償請求の主体は相続人になるので、相続が確定してから請求することになるのが通常でしょう。

 傷害事故の場合には、通常、治癒又は症状固定後に示談交渉が行われることになります。
 もっとも、損害額の確定を待たずに支払が必要となる治療費、生活費等について当座の費用が必要となる場合には、自賠法上の仮渡金制度や保険会社が行っている自賠責保険や対人賠償保険における内払制度を利用して、一定の程度の被害回復を図ることを検討していくことになります。そして、治癒又は症状固定前でも、たとえば、まだ治癒していないのに保険会社が治療の打ち切りを言ってきた場合や内払されている休業損害額に納得がいかない場合、タクシーを利用した場合などに保険会社が通院交通費を認めない場合などには、治癒又は症状固定前でも専門家に依頼するなどして交渉していくことがあります。この場合には、保険会社に対し治療経過、休業損害の基礎事情、タクシー利用の相当性を基礎付ける事情などを説明して交渉していくこになります。
 また、症状が重篤で長期間の治療が見込まれるときなども、症状固定による損害額の確定を待たずに、治療費や生活費等の費用ついて暫定的に内払いを求める交渉をしてことが必要となる場合があるでしょう。

 示談交渉をする場合、被害者としては時効に気をつける必要があります。
 不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年で消滅時効にかかります(民法724条)。
 自賠責保険への被害者請求(自賠16条。2年)では、3年(但し、平成22年4月1日前は2年)で消滅時効にかかります。なお、被害者請求の時効起算点については、「損害を知った時」すなわち通常は事故日ですが、後遺障害については後遺症が発現した日すなわち症状固定時となります。
 交渉が長期化した場合には、加害者側から債務承認等の時効中断に関する書類や自賠責保険所定の時効中断申請書を提出して承認書を得るようにします。

 次回は、示談契約についてみていきたいと思います。

弁護士 髙井健一