皆様こんにちは。
将来介護費とは、被害者に対する症状固定後の付添費あるいは介護費用をいいます。
この将来介護費については、以前、職業付添人が介護を行う期間について、日額2万4000円とかなり高額の介護費用を認容した東京地裁平成15年8月28日判決(自保ジャーナル1688号)をとりあげました。
将来介護費については、将来の介護保険制度自体の問題や、今後はより廉価な介護施設や介護サービスが充実する可能性があるなどその損害額の算定が難しい面があるため、損害の控え目な算定という観点から、実費の相当な範囲で認めるのが妥当とされる場合があります。上記東京地裁平成15年8月28日判決では、職業付添人が介護を行う期間について、日額2万4000円とかなり高額の介護費用を認容されましたが、原告が主張する損害額の約6割に相当する日額2万4000円を基礎として算定するのが相当と判断されています。
今回は、69歳女子重篤な高次脳機能障害を残した原告の介護料につき、平日はデイサービス及び職業介護人実費2万5392円と長男分の4000円で、日曜日は長男分の8000円を認めました福岡地裁平成17年7月12日判決(自保ジャーナル1612号)をみてみたいと思います。
事案は次のとおりです。
原告は、69歳女子主婦であるところ、平成14年12月19日、青色信号横断歩道を歩行中、被告運転、被告会社所有の普通貨物自動車が右折してきて衝突し、脳挫傷等で44日入院しました。そして、240日後に、重篤な高次脳機能障害等1級1号後遺症を残し、症状固定となりました。
原告は、遅延損害金充当後の既払金2928万3064円を控除し、約2億515万円、原告夫は1100万円、原告長男は約1600万円を求めて訴え提起しました。
本件事故後、現在まで、主に長男が原告の介護にあたっていましたが、原告の精神障害は、常時介護を必要する状態であったこと、また、原告夫も介護を受ける身であったこと、原告長男は自営業者であったことから、原告長男の介護負担は大きく、負担軽減の必要性がありました。
原告長男は、本件事故につき十分な賠償を受け、経済的に職業介添人に依頼できる条件が整えば、原告長男の出勤時間からデイサービス開始まで(午前8時から同10時まで)及びデイサービス終了から原告長男の帰宅まで(午後3時30分から同8時まで)各時間帯は、職業介添人におる訪問介護を実施し、それ以外の時間帯は、原告長男が介護を予定でした。
この点、裁判所は、デイサービス・職業介護人による訪問介護の費用については、「実際に要する実費全額を損害と認めるべきであり、また、未だ支給が確定していない将来の介護保険給付(予定)額は控除すべきでないから(最高裁平成5年3月24日大法廷判決」)として、その実費である日額2万5392円を認めました。
被告らは、今後の介護保険の給付割合や保険適用の範囲の変更があれば、介護ビジネスにも様々な影響があり、廉価で利用できる介護施設等の充実により、職業的付添いよりもそちらを利用することも考えられるなどと主張しました。
しかし、裁判所は、予測される原告の生存期間である今後十数年の間に、各種介護サービスがより廉価で利用できるようになる具体的な見込みが存することを認めるに足りる証拠はなく、現時点で利用可能な介護サービスを使用する場合に実際に要する実費を基礎として将来の介護費用を算定せざるを得ないというべきであるとしました。
ただし、原告長男の介護費については、「介護のプロとして専門的なサービスを供給する職業的介護との質的な違いがあることは否定できず、(近親者介護料と)金額に差があることはやむを得ない」として、職業人介護費については6時間半での実費2万5392円を認めたのに対し、長男分については12時間介護分4000円、日曜日24時間分8000円を認めるにとどまりました。
弁護士 髙井健一