こんにちは。
 今回は、裁判例(東京地裁平成24年1月18日判決・自保ジャーナル第1867号)をご紹介したいと思います。

 事案は、自賠責14級9号の後遺障害等級認定を受けた原告が、5級2号の高次脳機能障害を残したとして(異議申立てもしたが、14級9号であるとの結論は変わらず。)、被告に対し、14級9号を前提とした損害金(原告に支払済み)を控除した残りの賠償金の支払いを求めて訴えを提起したというものです。

 原告は、14級9号を前提とする損害金を受領する際、被告との間で、合意書を取り交わしていました。その中には、「賠償額を受領した後は、その余の請求を放棄し、被告に対し何らの訴えの提起等をしない。」という条項(以下、「本件不起訴合意」といいます。)があった反面、「ただし、後遺障害等級14級以上の後遺障害等級が認定された場合、別途協議する。」との条項がありました。

 原告は、「14級以上の後遺障害等級が認定された場合」には、異議申立て等自賠法に基づく後遺障害等級認定手続によって認定された場合だけでなく、訴えの提起によって認定された場合も含むとして、本件訴えを提起する権利があると主張しました。

 これに対し、裁判所は、「14級以上の後遺障害等級が認定された場合」という条項について、「14級以上」とは14級を「超える」認定を受けた場合を指し、「14級以上の後遺障害等級が認定された場合」とは、自賠法に基づく手続により14級を超える認定を受けた場合を指すと判示しました。

 そして、本件では、自賠法に基づく14級を超える等級の存在が認められず、原告による訴え提起は、本件不起訴合意に反するとして、訴えを却下しました。

 裁判所は、上記結論に至る理由として、仮に、「14級以上の後遺障害等級が認定された場合」に、自賠法に基づく後遺障害等級認定手続によって認定された場合だけでなく、訴えの提起によって認定される場合も含まれるとすると、本件不起訴合意は、「訴えを提起して14級を超える後遺障害が認定された場合には、訴えを提起することができる。」と読むことになり、論理的におかしな内容となってしまうということを挙げています。

 これは要するに、「14級以上の後遺障害等級が認定された場合」に訴えの提起による認定の場合を含むとすると、訴えを提起できるか否かは、訴えを提起してみないと分からないということになり、結局、不起訴合意をした意味がなくなるという趣旨のことを言っているものと考えられ、不起訴合意の存在意義を考慮すれば、その考えは妥当なものと言えるでしょう。