こんにちは。
平成24年3月21日付のブログ(「示談契約について①」)では、示談契約の拘束力(確定効)についてお話させていただきました。
今回は、示談内容が履行されない場合の対応方法についてお話したいと思います。
被害者と加害者(保険会社)との間で示談が成立しても、その後、加害者等が約束通りに債務を履行してくれないことがあります。
この場合、示談は和解契約(あるいは和解類似の無名契約)に過ぎないため、原則として、債務の履行を催促することはできても、履行の強制をすることはできません。法律が、私人による自力救済を認めていないからです。
ただし、例外的に、被害者が債務名義を取得すれば、強制執行という形で債務の履行を強制することができます。債務名義とは、強制執行の根拠となるものを言い(民事執行法22条)、例えば、確定判決や仮執行宣言付判決等がこれに当たります。
そして、交通事故の示談において、被害者が債務名義を取得する方法としては、以下のようなものがあります。
① 示談内容を執行認諾文言付公正証書(「執行証書」といいます)の形式で作成する
執行認諾文言付公正証書とは、加害者が賠償金の支払いをしない場合には、直ちに強制執行に服する旨の記載がある公正証書のことを言います。
本来、強制執行をするためには、支払督促・訴訟手続によって債務名義である確定判決を得る必要があります。しかし、示談書を執行証書の形式で作成しておけば、加害者が債務を履行しない場合、支払督促・訴訟手続を経ることなく、直ちに強制執行手続に移ることができます(民事執行法22条5号)。
② 民事調停手続を経由することにより、示談内容を調停調書の形式にしておく
裁判所に調停を申し立て、調停が成立した場合、調停調書が作成されます。この調停調書は裁判上の和解と同一の効力を有するところ(民事調停法16条)、裁判上の和解における和解調書の記載事項は確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。
そのため、調停条項で定められた債務が履行されない場合、被害者は調停調書を債務名義として、強制執行をすることができます(民事執行法22条7号)。
③ 即決和解手続を経由することにより、示談内容を和解調書の形式にしておく
即決和解手続とは、当事者間である程度話合いがついている場合に、当事者の一方が簡易裁判所に和解を申し立て、裁判所の手を借りて、和解を行う手続のことを言います。
即決和解手続によって和解が成立すれば、その和解は確定判決と同一の効力を有する裁判上の和解ということになり(民事訴訟法267条)、②の場合と同様、これを債務名義として強制執行をすることができます(民事執行法22条7号)。
上記の方法がとれなかった場合、債務名義がない以上、被害者としては、示談内容の履行を求める支払督促・給付訴訟を提起して、債務名義を取得することになります。
この場合、一旦合意した支払請求権が審理の対象となることから、合意の事実及び違反の事実を主張すれば足り、交通事故訴訟特有の立証の困難を回避することができます。