1 示談とは

 示談とは、一般に、裁判外で民事上の紛争を解決することを言います。

 交通事故に関して言えば、例えば、被害者と加害者との間で、責任の有無や賠償額に争いがある場合、お互いが譲歩し、加害者が被害者に対し一定の金員を支払う代わりに、被害者は加害者に対してそれ以上の請求をしない旨の合意するに至ったとき、被害者と加害者(保険会社)との間で示談契約(示談書)が結ばれることになります。

2 示談(和解)契約の拘束力(和解の確定効)

 この示談契約は、当事者間に紛争がある場合において、当事者が互いに譲歩して紛争をやめることを合意するものとして、民法上の和解契約(あるいは、和解類似の無名契約)に該当します。

 和解契約が成立した場合、紛争が終結する他に、「和解の確定効」が生じます。

 条文上の言葉で言えば、和解によって紛争の対象となった権利が存在すると認められたところ、後になって実はその権利が存在しないことが判明しても、その権利は和解によりその者に移転したものとして扱われ、逆に、和解によって紛争の対象となった権利が存在しないと認められたところ、後になって実はその権利が存在することが判明しても、その権利は和解により消滅したものとして扱われることになります(民法696条)。

 つまり、当事者間で紛争対象となった権利の存否について和解をすれば、たとえその後に和解内容と反対の事実が現れても、これによって和解内容を覆すことはできないということです。

 この「和解の確定効」が認められたのは、和解成立後の新たな事実によって和解内容を覆せるとすれば、紛争が蒸し返され、紛争の終局的解決という和解契約の目的を達成することができなくなるからです。

3 示談の内容を覆すことは可能か

⑴ 示談(和解)契約の取消し・無効

 もっとも、和解の確定効により、示談(和解)が成立した後は、何があっても示談の内容を覆せなくなるというわけではありません。示談も契約(当事者双方の意思表示の合致)の一つである以上、意思表示の過程に瑕疵等がある場合には、契約の取消し等をなしうることになります。以下で、その一例を挙げます。

ア 示談額が実損害と比べて著しく低く、被害者の無知に乗じて決められたものであると思われる場合、公序良俗違反(民法90条)や詐欺(民法96条)により、示談契約は無効となるか、又は、取り消すことができます。

イ 当事者双方が保険金請求等の目的で示談する場合等、双方が通謀して虚偽の意思表示をした場合、示談契約は無効となります(民法94条1項)。

ウ 「刑事事件の資料にするだけだから」という理由で、当事者の真意に基づく合意ではないことを前提に示談書を作る場合、心裡留保(民法93条ただし書)又は通謀虚偽表示(民法94条1項)により、示談契約は無効となります。

エ 紛争対象外の事項や、示談の前提・基礎となっていた重要な事実関係につき錯誤がある場合、示談契約は無効となります(民法95。ただし、加害者の責任の有無や賠償額等、和解(紛争)の対象となった事項については、和解の確定効により、錯誤無効の主張をすることができません。)。

⑵ 示談契約の解除

 また、示談も契約であることから、一方当事者が契約に基づく債務を履行しない場合、他方当事者は、債務不履行に基づく解除をすることができます(民法541条、415条)。

 例えば、交通事故の加害者が、示談で決められた賠償額を被害者に支払わない場合、被害者は加害者の賠償金支払債務の不履行を理由に示談契約を解除して、別途適正な損害賠を請求することができます。