1 はじめに

 こんにちは、弁護士の辻です。

 前回は、自賠責保険と任意保険とで、過失相殺の取り扱いが異なることを紹介しました。
 今回は、その派生的な問題として、被害者にも過失があり、かつ、損害が自賠責保険の限度額を超える場合の取り扱いについて、ご紹介します。

2 自賠責超過分と任意保険についての考え方

 被害者に過失が6割ついていた場合、自賠責では過失相殺による減額なく支払ってくれます。
 しかし、自賠責の限度額では被害者に生じた損害が全額填補されなかったとき、被害者は、任意保険に対して、どれだけの額を請求できるのでしょうか。

 考え方としては、2通りあります。
 ① 全損害から過失相殺した後、自賠責から填補された額を引く
 ② 全損害から自賠責填補額を引いた後、その残額部分を過失相殺する。
 これは、②の方が被害者に有利です。

 具体的に見ますと、損害額が1000万円、過失が6(被害者):4(相手方)、自賠責から120万円が支払われた場合、①の考えでは、以下のようになります。

(①の場合)

 400万円(=1000万円×4割)-120万円(自賠責)=280万円
 そして、任意保険会社から支払われる280万円と、自賠責から支払われた120万円を足した400万円が被害者の手に入ることになります。

 他方で②の場合には、以下のようになります。

(②の場合)

 880万円(=1000万円-120万円)×4割=352万円
 そして、任意保険会社から支払われる352万円と、自賠責から支払われた120万円を足しますので、472万円が被害者の手に入ることになります。

3 実務上の取り扱い

 保険実務上、①の考え方が採用されています。
 また、「強制保険金(筆者注:自賠責から給付された保険金のことです。)の給付分を控除した残額についてのみ過失相殺をすべきであるとの主張も、強制保険(筆者注;自賠責のことです。)の制度が、本質的には加害者の被害者に対する損害賠償の一環として機能しているものであつて、社会保障としての立場から給付を行うものではないから、これまたにわかに賛同し難いところである。」として、②の考えを明確に排斥したような裁判例もあります(名古屋高判昭和48年10月30日)。
 そのため、原則として、①の考え方のように、過失相殺による減額の後、自賠責保険からの給付を控除することになるでしょう。

4 さいごに

 前回も紹介しましたが、被害者にも過失がある場合の自賠責保険や任意保険の取り扱いは、少々複雑なところがあります。
 ご自身にも過失がある事故で、保険会社からの対応にご不明な点があった場合は、どうぞお気軽に当事務所にご相談ください。