交通事故が発生した場合、事故の原因を作った者は、そこから生じた損害を賠償しなければならない責任を負います。例えば、歩行者信号青色で横断歩道を歩いている歩行者を、進行方向対面信号赤色の状況で赤信号を無視してはねて負傷させた自動車の運転者は、歩行者に生じた損害を賠償する義務を負います。この場合の損害には、治療費や通院交通費、事故により仕事を休まなければならなくなったことによる減収分、慰謝料など様々なものがあります。

 もっとも、加害者が被害者に任意に賠償金を支払う場合は別として、そうでない場合には、被害者は、自分に権利がありそれが侵害されたこと、加害者に故意または過失があったこと、自分に損害が発生したこととその金額、権利侵害と損害の間に因果関係があることのすべてを立証しなければ、加害者に賠償をさせることができません。

 また、事故が重大であればあるほど、一般に賠償すべき金額は大きくなります。しかし、すべての人がその賠償金額を支払える能力(資力といいます)を有しているわけではありません。こうした場合に備えて、損害保険各社が提供するいわゆる「任意保険」があるわけですが、自動車を所有する皆さんはよくご存じのとおり、車種や年齢、運転歴によっては、かなりの額の保険料を支払わないと任意保険に加入できなかったりします。

 そうすると、交通事故の被害者は、重大な事故で多大な損害を受けたのに、立証ができないとか、立証できても加害者に資力がないとかで、賠償を受けられない可能性があることになってしまいます。これでは、危なくて自動車を運転することも、街を歩くこともできません。

 そこで、自動車による人身事故に限ってですが、自動車側の故意・過失の立証を必要とせず、被害者が最低限の賠償だけは受けられるようにする仕組みが作られました。これが自動車損害賠償保障法です。この法律に基づいて、自動車損害賠償責任保険(または共済)の制度がつくられました。これが「自賠責」と呼ばれているものです。自動車の所有者は、自動車の購入や車検の際に保険料を負担し、自賠責保険に加入しています。自賠責未加入の車を運行した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることがありますので注意してください。

 また、上記の自賠法の趣旨から、自賠責保険による損害の賠償にあたっては、被害者に重大な過失のある場合を除き、原則として過失相殺が行われないという特徴もあります。

 さて、この自賠責がカバーするのは自賠法3条が定める運行供用者の責任です。運行供用者は必ずしも運転者とは限りませんので、「加害者」の責任とは一致しないことがあります。とはいえ、自賠法が適用される事故であれば自賠責保険から一定限度とはいえ賠償金が支払われますので、交通事故の当事者である加害者や被害者が自賠法の適用を否定するメリットは通常ありません。加害者は、賠償すべき金額の一部を保険が肩代わりしてくれるわけですし、被害者は、自賠責の範囲では確実に賠償金を受け取ることができるからです。
 したがって、自賠法の適用を争うのは運行供用者(多くの場合はその自動車の所有者)ということになります。

 運行供用者がその責任を免れるためには、自賠法3条但書の3つの要件を主張・立証しなければなりません。これは、免責3要件と言われます。
 すなわち
① 自己及び運転者が自動車の運行に関して注意を怠らなかったこと
② 被害者又は運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
③ 自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと
です。

 運行供用者がこの3要件すべてを立証できたときに限り、運行供用者はその責任を免れることができます。(もっとも、その事故と①~③のいずれかの要件との間に何の関係もないことを別途主張・立証することに成功すれば、その要件については運行供用者は非該当の立証する必要がなくなるとするのが判例です。)

 また、不法行為の一般法理にのっとり、事故が不可抗力により生じたものであることを立証できた場合にも運行供用者は自賠法3条の責任を免れることができるとされています。

 とはいえ、これらの立証は容易ではなく、運行供用者が責任を免れるとされるケースは多くありません。
 また、自賠法の不適用の主張は、事故の加害者にも被害者にも重大な影響を及ぼす結果となります。
 運行供用者として交通事故の責任を負わなければならないかもしれない立場に立たされた場合や、相手方が自賠責の適用外を主張している場合などには、速やかにご相談ください。

 「運行供用者とは」については、当ブログですでに扱われていますので解説はそちらに譲ります。