今回は、岡山地裁倉敷支部平成18年11月14日の判例を紹介したいと思います。
事案は、オートバイ(自動二輪車)を運転していた被害者が事故道路を進行していたところ、他車両を追い越してきた加害者の運転する乗用車が急減速し、左折合図とともに路外に進出したため、左ハンドルを切り塞がれる形で被害者の運転するオートバイに衝突したというものです。被害者は、事故当時28歳で新婚5か月でした。
被害者は、事故から1年4か月後に症状固定の診断を受け、その時点では高次脳機能障害と半盲症の併合2級の後遺障害がありましたが、裁判の口頭弁論終結時においては、高次脳機能障害の症状が改善しており後遺障害等級は4級と判断されました。
症状固定とは、これ以上治療を続けても、症状の回復・改善が見込めない状態のことを言います。ですから、症状固定までは治療費や通院費が損害として認められますが、症状固定後はこれ以上治療しても改善しない以上、被害者が実際に病院に通っていても治療費等は原則として賠償の対象外となります。
高次脳機能障害とは、脳の損傷などにより、記憶障害、注意障害、社会的行動障害等、脳の高度で複雑な機能に障害が起こるものをいいます。
自賠責の報告書によると、「一般的に成人被害者は、急性期の症状の回復が急速に進み、それ以降は目立った回復が見られなくなるという時間的経過を辿ることが多い。したがって、受傷後少なくとも1年程度を等級認定時期の目安としている」とのことです(「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告書)」)。しかし、高次脳機能障害は、症状の認定自体が難しいうえに、症状の回復にはリハビリによるものも含むため、症状固定時期を定めるのは難しい場合があります。同報告書も「症状固定時期について、成人被害者の場合は、後遺障害診断書に記載された時点と捉えることで通常は妥当性の確保は可能である。」と述べていることから、問題意識がうかがえます。
本判例のように、症状固定後に症状の改善を認定するというのは、症状固定の概念からすると違和感があるかもしれません。しかし、高次脳機能障害の症状固定時期の判断は難しく、その難しさを表している判例の一つであるといえるでしょう。