こんにちは。今回は、素因減額事由についてお話したいと思います。

 損害賠償の範囲は、事故と損害の間に相当因果関係があるものについて認められるのですが、被害者の有していた身体的・精神的性質等、被害者の有していた素質(「素因」といいます。)が損害の発生または拡大に関わっていることがあります。

 心因的素因については昭和63年に、身体的素因については、平成4年に最高裁判決が出されており、いずれも、過失相殺を定めた民法722条を類推適用し、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平に失するときは、素因を考慮して、損害を減額することを認めています。

 では、どのような素因が公平に失するとして考慮されるのでしょうか。実務では、後縦靭帯骨化症、椎間版ヘルニア、骨粗鬆症などが良く争われます。

 後縦靭帯骨化症とは、 脊髄という神経の束の腹側にある後縦靭帯が骨化する(骨に変性する)疾患です。骨化して肥大した靭帯が脊髄や神経根を圧迫すると、手や足、体幹の痛み、しびれや運動障害などをきたします。この病気は、整形外科の外来を受診する者のレントゲン写真で約3パーセントにみられると報告されています(難病情報センター)。後縦靭帯骨化症に関する裁判例では、ほとんどが素因減額を肯定しており、その多くは2、3割の減額ですが、中には、5割の減額を認めるものもあります。

 また、椎間版ヘルニアについても、同様の割合程度の減額を肯定する裁判例が多いようです。

 一方、骨粗鬆症は、日本全体で、1100万人、50代女性の25パーセントに認められるとも言われています。若年者でも、運動不足やステロイド剤の利用により、発症することがあります。
 骨粗鬆症に関する裁判例では、この病気の有病率が高いことも関係あるのかもしれませんが、高齢者の被害者については、ほとんど減額を認めていません。他方、若年者の場合には、素因減額を認めており、減額の割合も比較的高いようです。