1 逸失利益

 治療が終了し保険会社と示談の話になった場合、賠償額の内訳を記載した書面が送られてきます。
 その中に、後遺障害等級が認定されていると、逸失利益という項目があります。
 これは、事故による後遺障害がなければ得られていたであろう利益のことを指しています。
 事故前に仕事をしていた人の場合であれば、後遺障害によって仕事に支障が生じ、減収が見込まれる場合に、その減収分を補てんするもののことです。なお、減収がない場合でも損害が認められることもあります。
 逸失利益の計算の方法は、収入額×労働能力喪失率(後遺障害による1年間の減収額)×労働能力喪失期間(支障が影響する期間)とされています。
 今回見ていくのは、このうちの労働能力喪失期間に関わるものです。

2 中間利息控除

 (1) むち打ち症に代表される後遺障害等級である14級9号の場合、裁判上、労働能力喪失期間を5年とされることがあります。

 そうすると、上記の考え方に従えば、1年間の減収額×5年となりそうです。
 しかし、実際は単純に5倍とされるのではなくライプニッツ係数「4.3295」というものがかけられています。
 一見すると、かける数字が小さくなっているので、被害者にとって不利なように見えます。
 では、なぜライプニッツ係数を使うのか、具体例を挙げて説明したいと思います。

 (2) 例えば、事故がなければ1年後に500万円の収入を得られたはずの人が、事故によって400万円しか得られないことになった場合について考えてみます。

 100万円の減収が生じていますので、この損害分を相手に請求することになります。
 ここで、仮に、損害は100万円だということで、今の時点で100万円をもらったとします。
 しかし、元々、この100万円は1年後にもらうはずだったものです。
 そこで、とりあえず銀行に預けて1年後に引き出すこととしました。
 1年後、収入は400万円になってしまったので、足りない100万円を埋めるために、預けていたお金を引き出します。
 このとき、100万円には、銀行に預けていたことで利息がついています。
 そうすると、減収の分を補てんするために100万円を支払ってもらったはずが、利息の分だけ得したことになり、実際の減収分以上の金額を受け取ったのと同じことになってしまいます。(なお、仮に銀行に預けていなくても、運用によって利益を得ることはできたといえます。)

 (3) この点を調整し、公平に賠償金を支払わせるために必要な作業といえるのが、労働能力喪失期間に生じた利息を除く「中間利息控除」です。
 また、中間利息控除を行った後の金額を算出するために用いられるのがライプニッツ係数です。

   

 次回は、中間利息の額が具体的にどの程度になるのか、実際に計算してみたいと思います。

弁護士 福留 謙悟