交通事故の事案で、非常によく争いになることのひとつが、過失割合に関する問題です。
 事故状況は、事故の現場に立ち会った人、すなわち当事者にしか分からないことも少なくありません。そのため、信号の色が青であったか赤であったか、どちらが先に交差点に進入していたか、といった点で、両当事者の言い分が食い違ったとき、どちらが正しくてどちらが誤っているのか、見極める客観的な事情に乏しいことが、このような争いを生む最大の原因です。

 弁護士は、このような交通事故の案件を受任したとき、弁護士法23条の2に基づく「弁護士会照会」という制度を利用して、検察庁や警察署に対し、実況見分調書や信号機の周期表の開示を求めることができます。これらの資料は、相手方の主張の不合理性を洗い出したり、客観的な不整合を衝くための主張を構築する上で重要なものですが、これらのみでは根本的に食い違っている主張を解きほぐすための情報として十分なものとはいえないことも少なくありません。

 このようなとき、刑事手続上の制度を利用することで、第三者の目撃証言などの資料を入手できる可能性があります。

 まず、運転者が起訴された場合、被害者参加の申出をした上で、検察官から公判提出証拠の開示を受けることが考えられます。
 被害者参加制度とは、一定の犯罪について公判請求(刑事裁判)がなされたとき、被害者が独立の地位に基づいて意見を表明することのできるものです。具体的には、証人や被告人に対して質問することができるほか、事実や法律の適用についての意見を述べることもできるものとされています。被害者あるいはその親族等が自ら行うこともできますし、弁護士を選任し、被害者参加弁護士としてこれらの手続を行ってもらうこともできます。そして、そのような手続をとるにあたり、公判のために検察官が裁判所に提出する資料の写しを作ってもらうことができることになっているのです。

 その他、被害者参加をしなくても、公判期日後であれば、犯罪被害者保護法に基づいて、証拠等の写しをもらえることになっています。また、判決が確定した後であれば、刑事確定記録法という法律の規定でコピーをもらうことができるとされています。

 これらの刑事記録は、個人情報を多く含むセンシティブなものですので、入手できたとしても取扱いには注意が必要です。弁護士は、刑事手続の専門家でもありますから、捜査機関に書類を徴求するような手続を踏まれるときは、依頼するか否かにかかわらず、一度弁護士の見解を聞いてみられることをお勧めします。