1 はじめに
本日は物損の慰謝料についてです。
交通事故によって思い入れのある物が壊れてしまったといった場合に、修理費用等とは別に慰謝料も請求できるのかという問題があります。
2 基本的な考え方
物損の慰謝料は原則として認められていません。
通常は財産的損害の填補によって、財産権侵害に伴う精神的損害も同時に填補されると考えられるからです。
高級車が破損された事案について、東京地裁平成元年3月24日判決は、「被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存することが必要」とし、結論として高級車についての慰謝料を否定しました。
慰謝料が認められるには、この裁判例のような「特段の事情」が認められる必要があり、しかも被害者個人の特殊な感情まで保護するものではなく、結局は一般人の常識に照らして判断されます。
3 物損の慰謝料が認められたケース
他方で、例外的に物損の慰謝料が認められた裁判例もあります。
霊園における墓石等に対する衝突事故により墓石が倒壊し、骨壺が露出する等した事案について、墓地等が先祖らの眠る場所として通常その所有者にとって強い敬愛追慕の念の対象となるという特殊性から慰謝料を肯定したもの(大阪地判平12.10.12)、深夜大型トラックの民家への飛び込み事故について建物と庭の修理代のほか、慰謝料を肯定したもの(岡山地判平8.9.19)等があります。
なお、ペットは、家族の一員であるかのような存在であり、異なる考慮が必要です。この点はまた別の機会に紹介しようと思います。
気になる点があれば、ぜひ我々弁護士にご相談ください。