後遺障害等級が認定されれば、後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料等について加害者に請求できることは御存じだと思いますが、では、治療をきちんとしていれば回復が見込まれたにもかかわらず、治療をしなかったために症状の回復が思わしくなく、結果、後遺障害等級が認定された場合どうなるのでしょうか。
たとえば、手術をすれば治っていたものを、手術をしなかった場合が考えられるでしょう。
平成24年3月16日に東京地裁でこんな判決が出ています。
事故態様は、歩道上での自転車の正面衝突だったようですが、事故によって右橈骨遠位端骨折の傷害を負った原告が、認定された後遺障害10級10号に応じて損害賠償請求訴訟を提起したところ、被告から、過失割合は当然として、今からでも手術によって症状改善が合理的に期待できるのでまだ症状固定時期は到来していない、仮に、手術しない意思があれば症状固定と考えてよいとしても、適切な時期に変形矯正手術をしていれば少なくとも後遺障害等級は12級程度だったのだから、自ら適切な時期に手術せず保存療法を選択したことは損害の拡大を防止すべき義務に反し、8割の過失相殺が認められるべきだと、争われました。
症状固定の有無、損害軽減義務違反による過失相殺が争いになったものです。
判決によると、治療(特に手術)は、その性質上、身体への侵襲を伴うものであり、また、その効果の確実性を保障できないものであって、交通事故の被害者に対し、治療を受けることを強制することはできないものであって、交通事故の被害者に対し、治療を受けることを強制することはできないものであるから、症状固定につき、一般的に考えられ得るすべて施しても症状の改善を望めない状態にいたらなければ症状固定とは言えないとすることは相当ではなく、被害者がこれ以上の治療は受けないと判断した場合には、それを前提として症状固定したものと判断するほかなく、治療の内容及び身体への侵襲の程度、治療による症状改善の蓋然性の有無や程度、被害者が当該判断をするに至った経緯や被害者の当該判断の合理性の有無等を、交通事故と相当因果関係のある損害の範囲を判断する際に斟酌するのが相当であるとしたうえで、原告主張通りの症状固定を認め、具体的詳細に事実を検討したうえで、損害の90%を認めました。
本件は、被害者の選択が手術をするか否かという一般的に判断を迷う選択であったこと、主治医が積極的に手術を薦めたとはいえなかったこと、手術すべきか判断が分かれるものであったこと等から手術をしないと判断したことが不合理な判断とまではいえなかったとされており、手術をしないという判断が不合理であれば大きく損害額が減額されてしまっていたものと思われます。
被害者とはいえ、損害を不合理に拡大させてはならない義務(損害軽減義務)はあると考えられており、やはり、被害者といえども一定の常識的な行動が求められます。
ただ、何が常識的なのかは判断しづらいところですので、専門家へ御相談することをお勧めします。