主治医「この手術が成功すれば、あなたのケガは完治します。ただし、成功率は80%・・・失敗すれば、病状が悪化する可能性があります・・・」
『パ○プロ』のダ○ジョーブ博士みたいですが・・・
さて、主治医の先生からこのような説明を受けた場合、皆様ならどうするでしょうか?
交通事故によって、傷害を負ってしまった場合、治療の方法としては、大きく分けて①保存的療法、②観血的療法(手術)の2つが考えられます。
骨折など、一部の傷害については、②の手術を行わなければ、完治が期待できないようなものがあります。
もっとも、ご存じのとおり、手術は、様々なリスクを伴うことが多く、また、手術を受けたからといって必ずしも完治するとは限らない場合があります。
また、手術痕が残ってしまったり、保存的療法に比べて治療期間が長くなってしまう可能性もあります。
このような場合に、交通事故の被害者が手術を回避することは、全くの自由なのでしょうか?手術を受けることによって症状の改善が見込まれるにもかかわらず、手術を受けなかったことが交通事故の損害算定にどのように影響してくるのかを、以下検討してみたいと思います。
1 症状固定との関係
「症状固定」とは、傷害の症状が安定し、医学上一般に認められた治療を行っても、その治療効果が期待できなくなった状態を指します。
症状固定までに生じた損害(たとえば、治療費、休業損害、通院慰謝料など)のことを「傷害による損害」、症状固定後も後遺障害が残存する場合に請求できる損害(たとえば、逸失利益、後遺障害慰謝料など)のことを「後遺障害による損害」といい、損害を確定するにあたって、症状固定に至っているかどうかが重要な争点となることがあります。
手術を受けることによって症状の改善が見込まれるにもかかわらず、手術を受けなかった場合に「症状固定」ということができるのでしょうか。
様々な見解があり、争いがあるところですが、基本的には、いかなる治療方法を選択するかは、交通事故の被害者に委ねられており、被害者がこれ以上の治療を受けないと考えた場合には、症状固定と考えるべきでしょう。
この点について、裁判例でも、
「治療(特に手術)は、その性質上、身体への侵襲を伴うものであり、また、その効果の確実性を保障することができないものであるから、交通事故の被害者に対し、治療を受けることを強制することはできない。したがって、一般的に考えられ得る治療をすべて施しても症状の改善を望めない状態に至らなければ、症状固定とはいえないとすることは相当でなく、被害者がこれ以上の治療は受けないと判断した場合には、それを前提として症状固定をしたものと判断するほかな」
いとの判断をしたものがあります(東京地判平24.3.16)。
2 損害額との関係
では、手術を受けることによって症状の改善が見込まれるにもかかわらず、手術を受けなかった場合に、交通事故による損害額に影響はあるのでしょうか。
傷害の程度や手術の危険性は、事案によって千差万別ですので、確定的なことは言えませんが、一定の場合、因果関係の一部を否定されたり、交通事故の被害者として損害を軽減させる義務を怠ったなどとして、損害額の一部を減額されることがあり得ます。
前記東京地判平24.3.16も、
「治療の内容及び身体への侵襲の程度、治療による症状改善の蓋然性の有無及び程度、被害者が上記判断をするに至った経緯や被害者の上記判断の合理性の有無等を、交通事故と相当因果関係のある損害の範囲を判断する際に斟酌するのが相当である」
として、交通事故と損害との(相当)因果関係の判断において、手術を受けなかったことを考慮することがあり得るとの判断を示しています。
上記裁判例は、保存的治療では適切な骨癒合が得られず、完治には変形矯正手術が必要という事案でしたが、様々な要素を考慮した上で、後遺障害が残存したことによる損害の90%の限度で、交通事故と(相当)因果関係のある損害と認めるのが相当であると判断し、10%の減額を行っています。