皆様こんにちは。

 被害者に後遺障害がある場合には、自賠責保険の手続において後遺障害等級認定がなされます。そして、被害者の損害賠償額に大きな比重を占める遺失利益や後遺障害慰謝料額の算定は、この等級認定に基づいてなされます。

 今回はこの被害者の損害賠償額に大きな影響を与える自賠保険における後遺障害等級認定がどのようになされるかについてみてみたいと思います。

 自賠責保険における後遺障害の等級認定は、以下の3つの場合になされます。

① 自賠法16条に基づく保険金請求をした場合

 まず、被害者自身が自賠責保険会社に自賠責保険に基づく損害賠償請求をする場合です(被害者請求、自賠法16条)。

 実際の等級認定は、自賠責保険会社ではなく、損害保険料率算出機構という団体が一括して行っています。すなわち、被害者請求がなされた場合、自賠責保険会社は、資料を損害保険料算出機構(以下「損保料率算出機構」といいます。)に送り、損保料率算出機構で提出された資料をチェックして等級認定を行います。(*実質的に等級判断する組織はいくつかあり、JA(農協)共済連や全労災をはじめてとしていくつか自賠責共済を扱っている共済組合もあります。)

 この際、損保料率算出機構は自らカルテを取り寄せたりはしないので、被害者側で資料を準備しないと、資料がないものとして、立証がないと扱われるおそれがあります。したがって、診断書には医師に症状などを詳しく記載してもらったうえで、できれば後遺障害についてのものだけでなく、経過のわかる診断書なども提出される方がよいでしょう。

② 自賠法15条に基づく損害賠償額の支払請求をした場合

 次に、加害者が保険金請求をする場合、すなわち、加害者が賠償金を支払って、それを前提に加害者が自賠責保険会社に保険金の支払を請求する場合です(加害者請求、自賠法15条)。

 この場合も、①の場合と同様、自賠責保険会社は、損保料率算出機構に損害調査を依頼し、損保料率算出機構から自賠責保険会社に結果が示されるという流れになります。

③任意保険会社による事前認定がなされる場合

 事前認定とは、加害者の任意保険会社だけができる特殊な方法で、任意保険会社が被害者に対する支払をする見込みを立てるため、自賠責保険会社に、被害者の後遺障害等級認定をしてもらうという手続です。

 任意保険会社が被害者と示談交渉をして話をまとめようとする場合に、あらかじめ何級ぐらいに認定してもらえるか見てくれませんかという手続をするものです。この場合は任意保険会社から直接、損保料率機構に問い合わせをするということになり、これは上記②の15条に基づく請求という扱いになります。

 上記のように認定された自賠責保険の後遺障害等級認定に不服がある場合には、次の2つの不服申立手段があります。

① 自賠責保険会社に対する異議申立て

 自賠責保険の損害調査に対しては、異議を申し立てることができ、等級認定に対しても異議を申立てることができます。これは、損保料率機構の内部手続としての設けられた異議申立制度です。宛先は自賠責保険会社になりますが、その後自賠責保険会社を通じて、損保料算出機構の中にある自賠責保険審査会で審査されます。等級認定に対する異議については、後遺障害の専門部会で異議についての審査が行われることになります。なお、一括対応の場合における不服申立ては、任意保険会社に対する不服申立てになりますが、その後、自賠責保険会社、自賠責保険審査会と流れていくので、同様の審査になります。

 この異議申立ては新たな診断書を追加するなどして何回でも行うことができます。

②(財)自賠責保険・共済紛争処理機構に対する紛争処理の申請

 後遺障害の等級認定に不満があり、これを受けて決定された自賠責保険等の支払に納得がいかない場合には、(財)自賠責保険・共済紛争処理機構に対して調停(紛争処理)申立てをすることができます。

 これは、自賠責保険に対して異議申立てをする手続とは違い、第三者である紛争処理機関に対する申請です。紛争処理機構というものを、従来の損保料率算出機構の中の異議申立てとは別次元で、全くの第三者機関として設立されたというところに意味があります。いわゆるADRですが、ここで自賠責保険会社の判断について検討をして、最終判断を下すという手続が保障されています。

 ただし、この調停申立ては、自賠責保険金等の支払に関する部分に限られ、①の異議申立てと異なり再度の申立てはできない点に注意する必要があります。

弁護士 髙井健一