※以下の会話は架空のものであり、実在の人物等とは一切関係がありません。

甲山「先生、今日はうちの会社の話じゃなくて、事故の話なんです。これ見て下さいよ!」

太田「いつもお元気そうなだけに痛々しいです。」

甲山「(コルセットを指さしながら)首をやってしまって、ずっとこんな調子なんです。相手も100%過失があるというのは認めていて、治療費なんかは全部払ってくれそうなんですけど、問題は車です。」

太田「物損のお話ですね。相手の保険会社が修理費を支払わないと言ってるんですか?」

甲山「いや、修理費は支払うと言っています。でも、ワシは納得がいかん!」

太田「何が納得いかないんですか?」

甲山「ワシは今年新車で買ったばかりのヴェルファイアのおかまを掘られたんですよ? 修理したとしても事故車扱いで、価値がものすごく下がってしまいます。」

太田「その、下がってしまう価値のことを評価損っていうんですけどね。ヴェルファイアって、トヨタの高級ミニバンですよね。う~ん、微妙だ・・・。」

甲山「何が微妙だと言うんですか、ワシの趣味ですか!」

太田「いやいや、そんなことじゃなくて(確かに甲山社長にしては若々しい車だな)。例えば、です。車が新車のヴェルファイアじゃなくて、5年落ちのヴィッツだったとしませんか?」

甲山「うちのヨメの車がちょうどそんな感じだ。ふむふむ。」

太田「トヨタのヴィッツでも日産のマーチでもいいけど、ある程度購入から時間の経っているごくごく普通の自動車が事故で損傷した場合、評価損なんか請求できませんね。少なくとも保険会社は払いませんよ。」

甲山「古い上に大衆車だから、評価が下がったとしても大した額にならないからでしょ?」

太田「まあ、そういうこともあるかもしれませんけど、控えめに5万や10万請求したところでやっぱり認めてくれません。基本的に、交通事故で保険会社が評価損について支払ってくれることはありません。これは覚えておいてくださいね。」

甲山「そうなんですか。」

太田「話は脱線しますが、これが例えば初年度登録が10年以上前の軽自動車で、修理代に30万円かかったとしたらどうでしょう?」

甲山「修理代の30万円しか払ってくれないということですね。」

太田「いいや、そんなに払ってくれません。」

甲山「なぜですかっ! 実際に30万円修理にかかっているのに!!」

太田「よく考えてみてください。10年以上前の軽自動車なんか中古車販売店に売ったとしても二束三文で修理代の方が高くなってしまいます。そういう場合には、修理費用ではなく、事故直前の車の価値しか支払われません。車の状態にもよりますが、おおよそ10万~20万円とかじゃないですか。」

甲山「何だか納得いかんな・・・。」

太田「修理するより同レベルの中古車を買ったほうが安いですからね。例外もあるのですが、保険会社との交渉はだいたいそんなもんだと思っておいてください。」

甲山「それで、ワシのヴェルファイアはどうなるんですか、先生!」

太田「きっと保険会社は払わない方向で交渉してくると思うんですけど、裁判なら認められる可能性はあると思っています。買ったばかりでまあまあ値の張る車ですからね。」

甲山「認めてもらうにはどうしたらいいですか?」

太田「客観的な資料を出すべきですね。甲山社長の事故直前のヴェルファイアと、事故後のヴェルファイアの価値の差を書面で示すのです。」

甲山「ワシの同級生に中古車販売店を経営している奴がいるが、そいつに書いてもらうのでいいですか?」

太田「ん~、お友達に書いてもらったのではちょっと認められないでしょうね。ちゃんとした団体にお願いしましょう。」

甲山「そんな団体があるのですか?」

太田「ええ。財団法人日本自動車査定協会といいまして、ここで評価損を証明してもらうことができます。判例でも、ここの証明書が評価損の証拠として認められています。」

甲山「けど、そのナントカ協会は東京とかにしかないんじゃないですか? 首が痛いのに運転して東京まで行かなきゃ・・・。」

太田「いえいえ、各都道府県にありますよ。協会のホームページ(http://www.jaai.or.jp/)を見て、近くの協会の支所に問い合わせてください。」

甲山「へ~、一度行ってみようかな。でも、恐ろしく費用がかかるんじゃないです?」

太田「たしかに無料ではないですね。1~2万弱くらいかかると思います。それも前もってお近くの支所に問い合わせてみてください。」

甲山「ふ~ん、査定証を見せれば保険会社も払ってくれるかな?」

太田「多分払ってくれません。」

甲山「ちょっと待って下さいよ! 査定料がムダじゃないですか!!」

太田「どうしてもということであれば、訴訟するしかないですね。まあ、保険会社の交渉担当もいろんな人がいて、弁護士が入れば急に弱気になる人もいるのでね。うちで交渉の依頼を受ければ評価損、頑張って請求しますよ。」

甲山「先生に頼むかどうかはそのナントカ協会で査定してもらってからにします。そのほうが費用対効果が分かって良いような気がする。」

太田「私もそれがいいと思います。」

甲山「ところで先生、これブログにするんでしょ? 読者サービスしないと!」

太田「甲山社長、じゃあ、ブログに書くときには多少付け加えておきますね。」

甲山「それと、ワシへのサービスは?」

太田「『甲山社長はダンディで、女性からモテモテ』と書いておきます。」

甲山「・・・(相談料はまけてもらえないようだな)。」

一般的な評価損の解説
解説すると、判例は高級外車ないし国産高級車の事例が多いため、甲山社長に「微妙だな・・・」と言ったわけです。おそらく、訴訟の手間や弁護士費用のことを考えると、国産のごく普通の自動車の場合には二の足をふんでしまう方が多いと思います。徹底的に争いたい場合には、費用対効果を考えて、かつ訴訟も視野に入れて評価損を主張することをおすすめします。

弁護士 太田香清