1.はじめに

 こんにちは、弁護士の辻です。
 交通事故が発生した場合、加害者が現場から逃げてしまうことがあります。
 いわゆる「ひき逃げ」の事案です。一般的な感覚からしても、加害者が被害者を放置して立ち去ってしまうことは非情なことだとは思いますが、法的にも様々な問題があります。今日は、ひき逃げについて法的に何なのか説明したいと思います。

2.救護義務違反

 道路交通法72条1項前段は、

「交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない」

と定めています(以下、同義務を「救護義務」といいます。)。

 ここでいう「直ちに車両等の運転を停止して」とは、「交通事故が発生したときは、すぐ車両等をとめて必要な措置をとれという意味 」であり、「負傷者を救護し」とは、「現場において応急の手当てをすることはもちろん、医師への急報、救急車の要請又は病院へ負傷者を運ぶこと 」などの措置をとることを言います(道路交通執務研究会編著「16訂版執務資料 道路交通法解説」797~798頁参照)。

 つまり、交通事故が発生したならば、加害者は、直ちに停車し、被害者に対し応急の手当てや救急車等を要請しなければなりません。
 そのため、ひき逃げは、道交法上の救護義務に違反することとなります。

3.ひき逃げの責任

 道路交通法117条は、人が死亡したり怪我をした事故において、救護義務違反をしたものについて、5年以下の懲役または50万円以下の罰金を規定しています。また、同様の事故で救護義務違反をした運転者が、事故発生の原因となった運転をしたものである場合には、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金とするとして、より重い罰則が規定されています。
 さらに、損害賠償請求において慰謝料の増額事由になることもあります。

4.おわりに

 このように、ひき逃げには法的な責任が課せられます。事故を起こしたくて起こす方はいらっしゃらないと思いますが、事故を起こした以上、最低でも被害者を救助してほしいと思います。