今日は、自動車保険普通保険約款第5条第6項の、対人事故の被害者が、被保険者と同一使用者のもとにおける使用人、すなわち同僚である場合であって、その使用者の業務に従事中の場合は、免責となることについて検討します。

1、本条の意義、趣旨について具体例を交えて検討してみます。

 例えば、記名被保険者が法人Aであり、その使用人BおよびCが被保険自動車を使用してA法人の業務に従事中、Bの過失によってCの生命、身体が害されたとします。

 A法人が賠償責任を負担したことによって被る損害は、本条第4項によって免責となりますが、CがBに対して損害賠償の請求を行い、Bが賠償責任を負担した場合は、被害者Cが被保険者Bの使用者Aの使用人であることから、本条第5項により、免責となります。

 この免責条項が設けられた趣旨は、「車両が業務に使用される場合、その運行によって業務に従事する使用人が被災する危険が一般に高いために、その危険を定型的に保険の対象から除外し、業務中の事故により使用人が被る損害の賠償は、一般的にこれを労災補償責任およびそれを前提とする労災保険法上の業務災害に関する保険給付に委ねることとしたところにある」と解されています(横浜地裁川崎支部 昭和55年2月14日判決)。

2、次に、「使用者の業務に従事中」について検討します。

 例えば、会社のマイクロバスで従業員が通勤中、通りから犬が飛び出し、急停止やむなきに至りました。乗車中の従業員の何名かが転倒、下肢の骨折を含む大怪我になりましたが、対人保険の請求は可能でしょうか?

 判例は、

「本件免責条項中の「業務に従事中」の事故に該当するかどうかの認定については、労災保険法上の業務上および業務外の認定基準に準じて考えるのが相当である。右の業務上外の認定に際しては、通勤途上の災害は、一般には、いまだ事業主の支配下にあるとはいえないから業務遂行性はなく、従って、その間に発生した災害は業務起因性が認められず、業務外の災害と解されているが、例外的に、事業主が専用の交通機関を労働者の通勤の用に供している等その利用に起因する災害に業務起因性が認められるとき、或は、通勤途上で用務を行なう場合等で業務遂行性が認められるときには業務上の災害とされることがあると解される。」

としています(横浜地裁川崎支部 昭和55年2月14日判決)。

 先ほどの例では、通勤は使用者の支配下にあるとは考えられませんので、「業務に従事中」は該当しないように思えますが、事業主の提供する送迎用車両に乗車中は、「事業主が専用の交通機関を労働者の通勤の用に供している等」といえるので、「業務従事中」として取り扱われるのです。
 従って、本条第6項に該当することになるため、対人保険の支払いはありません。

 では、従業員個人の所有車で立ち寄り先に向かう途中、運転を誤り電柱に激突、助手席に同乗中の同僚が死亡した場合は、明らかに、「業務に従事中」に当たります。対人保険への請求はできないのでしょうか?
 この場合、個人名義の車両には、「同僚災害担保特約」が自動付帯されています。この特約によって、対人保険への請求が可能です。