皆様こんにちは。

 今回から他の弁護士と共に当ブログを担当させていただくことになりました。皆さまのお役に立てる内容を提供していきたいと思いますので、これからよろしくお願いいたします。

 今回は、交通事故における損害賠償額を算定する基準には3つの基準があるという内容です。
 交通事故問題に関わる者は当然のこととして知っている基準ですが、一般の方には知らない方も大勢いらっしゃると思います。納得できる賠償がなされるようにするためにも是非知っておいていただきたいと思います。

 3つの基準とは、

① 自賠責保険の支払基準
② 任意保険の基準
③ 裁判所・弁護士が用いる基準

の3つです。

① 自賠責保険の支払基準

 自賠責保険とは、被害者保護を目的とする自動車損害賠償法、いわゆる自賠法に基づく強制保険です。

 ①の自賠責保険の支払い基準とは、自賠法の16条の3に基づいて政令で定められた支払基準になります。

 自賠責保険は、最低限の補償の確保を目的としているため、保険金の上限が被害者1人につき死亡3000万円・後遺障害4000万円・傷害120万円までというように、他の基準に比べると、低く設定されています。

 他方で、自賠責保険の制度趣旨が被害者保護にあるため、被害者に過失があっても、その過失が70%以上と認定されなければ、自賠責保険金は減額されずに全額支払われ、また、死因や後遺障害発生原因が明らかでない場合でも、死亡、後遺障害による損害額の5割は支払われるなど、被害者に有利な取扱いになっています。

 なお、最高裁判決(最判平成18年3月30日)により、自賠責保険の支払基準が裁判所を拘束するものではないことが明らかにされています。

② 任意保険の基準

 自動車保険会社が社内で任意に規定している基準です。

 自賠責保険は最低保障なので、それを超える部分については、被害者から加害者あるいは保険会社に請求して支払を求めることになります。
 この任意保険は自賠責保険の上積みであり、保険会社との示談における基準ですが、③の裁判・弁護士基準に比較すると低額なものになっています。

 任意保険からの支払提示案に「会社の基準」、あるいは「任意保険の基準」で計算される額などと書いてあることがありますが、ここいう任意保険の基準というのは、あくまでも保険会社が、これに従って支払っているという計算方法にすぎません。したがって、その基準に被害者が従わなければならない理由はありません。

③ 裁判基準・弁護士基準(請求基準)

 これは、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』や財団法人日弁連交通事故相談センター編『交通事故損害額算定基準』などに掲載されている基準です。
 弁護士会の委員会が公表している基準ですが、裁判官も目安として使用している基準として公表されているもので、裁判実務上の目安とされている基準です。
 裁判所に行ったときには、この基準を目安にして、一般的な損害の認定に従って損害賠償額の算定が行われています。

 上記の②任意保険会社の基準とこの③裁判基準・弁護士基準との間には多くの点で差があります。とくに、任意保険基準の慰謝料額と、裁判をやったときの裁判・弁護士基準による慰謝料額との間には、大きな差があるといえます。したがって、慰謝料だけ見ても、裁判をやった方がさらなる上乗せが期待できるというのが現状だと思われます。

 上記のように、保険会社の提示する賠償金額は、保険会社の任意基準に従って計算された基準です。しかし、他の基準があることを知らないために、保険会社の提示する額に納得がいかないながらも、その賠償額で示談をしてしまうケースも多くあると思われます。疑問や納得がいかない点がある場合には、一度弁護士や相談センターなどに相談されるのがよいと思います。