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 さて、ローンを組んでようやく手に入れた愛車が、思いがけない事故によって破損してしまうという事件を耳にした時に、法律家にとって“ローンを組んでいる”という点で注意しなければならない問題があります。

 物損事故の損害賠償を求める場合、その請求権者は原則として損害を被った物の所有者となります。

 しかし、ローンを組んで車を購入した場合のすべての場合がそうであるというわけではありませんが、ローンの種類によっては“所有権留保付き”の特約がなされている場合があります。

 この特約は、車の購入者が代金を完済するまでは車の所有権が購入者に移転せず、販売者が依然として車の所有権を持ったままでいるというもので、車そのものを担保の目的として購入代金を貸し付けるために行われます。

 そして、この所有権留保付売買により売買された車が、交通事故によって破損した場合、その損害の賠償を加害者に対して請求できるのは、現実に自分の物のように車を運転している購入者と、未だ所有権を持っている販売者のどちらになるのかという問題があるわけです。

 この問題は、例えば車が大破して全損の状態になってしまった場合をイメージすると分かりやすいと思います。

 車が物理的に全損となりスクラップにしなければならなくなった場合に、仮に販売者がその損害の賠償を加害者に求められるとすると、販売者は購入者から車の購入代金の支払いも受けられるし加害者から損害の賠償も受けられることになります。

 しかし、これを不当として購入者が損害の賠償を求められるとすると、販売者は担保のために所有権の留保をしていたにもかかわらずその担保を失うこととなり、担保のない債権を購入者に対して持つことになるという危険な状態になるわけです。

 なお、販売者が損害の賠償を求められるとしても、購入者には損害の賠償金と売買代金との両方を得たことにより必要以上に利益を得た販売者に対して、両方取りにより得すぎた利益分の支払いを求めることができると考えられます。

 この問題に関する裁判例を見てみると、購入者に損害賠償の請求権を認めるものと販売者に請求権を認めるものと様々なものがあり、購入者と販売者のどちらを保護する必要が高いかという価値判断が鋭く対立する問題であるといえます。

 このようにローンを組んだ上で車を購入した場合の物損事故には、もしかしたら法律上の難しい問題が含まれているおそれがあります。
 事故にあった際は、不当な不利益を被らないためにもぜひ一度法律の専門家に相談するべきでしょう。

弁護士 古関俊祐