2 通院頻度が低い場合に慰謝料が下がってしまう理由
むち打ち症の場合の慰謝料は、弁護士が介入している場合、いわゆる「赤い本の別表Ⅱ」を用いて算定するのが一般的です(他にも、軽い打撲、軽い挫創の場合にも赤い本の別表Ⅱを使うことが多いです)。
「赤い本」とは、交通事故に関する様々な損害について、裁判基準の賠償金額や基本的な計算方法等が記載されている文献です。
赤い本に「別表Ⅱ」として慰謝料の算定表が掲載されており、これが、むち打ち症の場合の慰謝料の「裁判基準の金額」となります。
これによれば、たとえば通院期間が3か月間の場合の慰謝料は53万円、6か月間の場合は89万円ということになります。
上記のケースだと、半年間(6か月間)通院しているので慰謝料は89万円ということになるはずですが、場合によっては、保険会社から、「通院頻度が低い」ことを理由に、大幅に低くも積もられた慰謝料が提示されることがあります。
この点について、赤い本を見てみると、次のような記載があります。
「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」
保険会社は、赤い本のこの記載をもとに、慰謝料の金額を低く見積もってくるものと考えられます。
つまり、通院頻度が低い場合は、実際の通院期間(6か月)ではなく、実通院日数(30日=1か月)の3倍程度(90日=3か月)を慰謝料算定のための通院期間の目安として、慰謝料を算定するということです。
この場合、実際には6か月間も通院していたとしても、慰謝料の算定の局面では3か月間しか通院していなかったものとみて、慰謝料は53万円であると提示されることがあります(そこからさらに1、2割減されてしまうケースも見られます)。
もっとも、通院頻度が低い場合に、必ずしも慰謝料が下がるとは限りません。
上記の赤い本の記載をよく見ると、「通院が長期にわたることもある」と留保されていることが分かると思います。
つまり、通院頻度の低さを理由として慰謝料が下がる類型として、赤い本が想定しているのは、「通院が長期にわたり」、かつ、「通院頻度が低い」場合ということになりますし、その場合でも、必ず慰謝料が下がるとはされていません。
裁判例を見ても、通院頻度が低くても、通院期間があまり長期化していない場合は、特に慰謝料が下げられているとは思われないものが相当数あります。
反対に、通院期間が1年以上と長期にわたり、かつ、通院頻度が極めて低く、月に2~3回程度の割合にも達しない場合には、慰謝料が下がることはやむを得ないところでしょう。
むち打ち症の場合に6か月程度通院することは一般的であると思われますので、上記ケースだと、通院が長期化しているとはいえないのではないかと思われます。
そのため、たとえ通院頻度が低くても、慰謝料が下げられるべきではないケースだということもできるでしょう。