今回は業務中に交通事故にあわれた被害者Xさんが(過失割合は無いと仮定します)、治療等に関し労災保険を使うべきか自賠責保険の請求をすべきかについて検討します。
1、労災保険と自賠責保険の優先関係
(1)被害者の選択は自由であることについて
結論から言いますとこの場合Xさんは、労災保険の給付申請をすることも自賠責保険の損賠賠償請求をすることも自由に選択できます。
(2)厚労省と国土交通省間での関係では、自賠責保険が先行するのが原則であることについて
厚生労働省の通達には、以下のような記述があります。
第三者行為による災害の大半は交通事故であり、この場合には自動車損害賠償保険と競合することが多い。この場合の労災保険との調整は自賠責保険を加害者側として処理が行われる。どちらの保険を先に請求するかは被災労働者側の自由であるが、厚労省では自賠責保険を先行し不足分を労災保険で給付することを希望している。(自動車賠償保険と労災保険炉の支払調整について 昭41.12.16基発1305号)
このように、行政庁間では強制力こそないですが、扱いとしては自賠責保険の支払いを先行するのを原則としています。
2、Xさんが自賠責保険を請求した場合について
(1)自賠責保険からは、治療費、休業損害、入通院慰謝料、後遺症認定がされればさらに後遺障害慰謝料や逸失利益の支払いがなされます。
(2)加えて、Xさんは労災保険からの休業補償給付・休業給付とは別枠の社会復帰促進等事業の「休業特別支給金」を申請すれば、休業の4日目から給付基礎日額の20%が追加で支給されます。この「休業特別支給金」は自賠責保険の賠償額から控除されることはありません。
3、Xさんが労災保険の申請をした場合について
(1)労災保険では業務上の災害によるけがで賃金を受けられないとき、休業の4日目から給付基礎日額の60%が支給されます。休業の1日目~3日目は待機期間となり、休業補償給付等としては支給されないのです。
自賠責保険との違いでいいいますと、この点給付額が労災のほうが低くなります。
(2)ほかにも、労災から支給されるものとして、療養補償給付、障害保障給付、遺族補償給付がありますが、これらの給付を被害者の方が受け取った場合には、自賠責の損害額計算からは控除されます。
(3)休業特別支給金、障害特別支給金については、自賠責保険の損害額計算から控除されません。ですから、この支給金については、仮に自賠責保険からの損害賠償を受けていたとしても別途労災への請求を忘れないようにしなければいけません。