1 はじめに

 こんにちは、弁護士の辻です。
 交通事故の法律相談をしていると、「この後遺障害診断書の記載内容で、後遺障害は取れるでしょうか。」といった相談をいただくことがあります。
 正直なところ、後遺障害診断書の記載内容が完璧であっても、その裏付けとなる検査所見によって、後遺障害が認定されるかどうかは異なりますので、後遺障害診断書の記載内容だけで、「第〇級〇号の後遺障害が必ず認定されます。」とはお答えしづらいです(目処はつけられますが)。

 ただ、逆に、「これは非該当と認定されます(または、これでは認定はありません等)。」とお答えできる場合はあります。
 今日は、上肢・下肢(手指と足趾は除いておきます。以下、同じです。)の関節可動域制限の後遺障害(機能障害)について、そのような例をご紹介したいと思います。

2 後遺障害認定基準に満たない場合

 上肢・下肢の関節可動域制限の後遺障害は、後遺障害別等級表上、第12級から、等級が規定されています。
 第12級の6号と7号で、上肢か下肢か、異なりますが、それぞれ「3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」であれば、第12級として認定されます。
「1関節の機能に障害を残すもの」とは、患側(障害がある方の上肢下肢の関節)の可動域が、健側(障害がない方の上肢下肢の関節)の可動域と比べて、4分の3以下になっている場合を意味します。

 そのため、患側の関節が曲がりづらくなったとしても、健側の4分の3を超える程度には曲る場合(5分の4以上曲る場合など)には、「1関節の機能に障害を残すもの」に当たらず、自賠責保険における後遺障害とは認定されません。
 ですので、後遺障害診断書上、4分の3を超えるくらい曲っているのであれば、「自賠責保険における後遺障害にはあたりません」とか「非該当と認定されます」とお答えできます。

3 記載が不十分な場合

 2で述べたように、機能障害は、患側と健側を比較します(両側に障害がある場合は、参考可動域と比較します)。
 そのため、患側と健側の両方が記載されていなければ、そもそも審査できず、後遺障害にあたるか判断できません。
 また、これは原則として、他動値を基準に認定がなされますので、自動値のみが記載されている場合も、判断できません(神経損傷等による可動域制限は別ですが。)。

4 おわりに

 以上のうち、少なくとも記載が不十分なものについては、後遺障害診断書の書式上、「⑩上肢・下肢及び手指・足指の障害」欄の「関節機能障害」欄に、「日整会方式により自動他動および健側患側とも記入してください」と明記されているので、本来であれば見られない類の後遺障害診断書ではあると思います。
 しかし、現実には、この点の記載が不十分な診断書が存在します。
 ただ、医師は、体を治す専門家であって、後遺障害診断書の書き方に関しての専門家ではありませんので、これは仕方ないことでもあります。
 むしろ、このレベルの記載の不備であれば、ご自身で精査して、医師に追加の記載をお願いする方が得策です。もちろん、弁護士に相談することも良いと思われます。

 ご自身の後遺障害診断書の記載が十分なものなのか、判断がつかない方は、是非弊所にご相談ください。