1 はじめに

①従業員が交通事故にあって働けなくなったが、生活できないとかわいそうなので、休業中にもかかわらず給料の全部又は一部を支払ってあげた

②会社の取締役や監査役などの役員が交通事故にあって働けなくなったが、定款や契約書上、役員報酬を減額できない規定になっているため役員報酬を支払った

といった場合に、会社は、交通事故加害者に損害賠償をすることができるかという形で生じてきます。
 このような問題は、「反射損害」の問題といい、交通事故損害賠償請求の場面でしばしば直面します。
 要するに、「会社は、働けない人間に対して支払った給料等を、会社の損害として請求できるか」という問題です。

2 企業損害

 反射損害と類似の問題として、「企業損害」の問題が挙げられます。この問題は小規模会社の役員等が交通事故に遭い、会社の売上が減少した場合に、会社は、交通事故加害者に対して、減少した売上(及び将来減少することが見込まれる売上相当の逸失利益)を賠償請求することができるか、という問題です。

 企業損害に関しては、①代表者(被害者たる自然人)への実権集中、②代表者の非代替性、③会社と代表者の経済的一体性がある場合に、加害者に対する賠償請求が肯定されています。

3 反射損害

 企業損害が認められるためには、上記①~③の要件という比較的高いハードルがありますが、反射損害の場合、企業損害よりも認められやすい傾向があります。
 上記傾向は、「働けない従業員等に対する休業損害は、本来は加害者が支払うべきだった。会社は、加害者が支払うべきだった休業損害を肩代わりして支払ったに過ぎないので、加害者に対して賠償請求ができて当然である。」という考え方が背景にあります。
 もっとも、反射損害を請求するにあたっての法的根拠に関し、見解の対立があります。

(A) 給料等の支払いが義務的である場合に、交通事故が会社自体に対する不法行為であると構成する見解
(B) 被害者が有していた損害賠償請求権の代位が生じるという見解
(C) 加害者に不当利得が生じているという見解
(D) 民法422条を類推適用する見解
(E) 加害者と会社が不真正連帯債務関係にあり会社は加害者に対して求償できると構成する見解、など様々な見解があります。

 裁判外で示談をする場合には、ざっくりと「反射損害を○○円請求します。」との主張で大過ありませんが、訴訟等では、事案に応じて反射損害の法的根拠をきちんと示す必要があるので、注意を要します。

 また、反射損害は、「働けない人間に対して金を払ったことが損害だ」というものです。役員報酬は、会社の利益配当としての部分(利益配当部分)と、従業員に対する給料と同じように、仕事の対価としての部分(労務対価部分)から構成されていますが、反射損害として請求できる部分は、労務対価部分に限られています(※利益配当部分の損害を請求しようとすると、上記の企業損害の問題に近接します。)。
 役員報酬を反射損害として請求する場合には、利益配当部分と労務対価部分の適切な切り分けが必要となります。