1.はじめに
皆様、こんにちは。
今日は、実際の裁判例を取り上げたいと思います。
取り上げる裁判例は、最高裁平成9年9月9日(判タ955号139頁)です。
この事案では、男性(以下、「A」とします。)がAの恋人の女性(以下、「B」とします。)と待ち合わせをしてデートをした後に、AがBをB宅に送り届ける途中に事故が発生し、不幸にもBが亡くなってしまったというもので、Bの両親がAの車に衝突した加害車両を運転していた加害者(以下、「Y」とします。)に対して損害賠償請求したものです。
ただし、事故態様からAにも4割の過失が認められており(Aの過失4割:Yの過失6割)、そのため、Bと恋愛関係にあるAの過失をBの賠償額を定めるにあたって考慮してよいかが問題となりました(なお、AとBは、事故の約3年程度前から交際していましたが、いまだ婚姻しておらず、同居もしていませんでした。)。
2.「被害者側」の過失とは?
過失相殺において考慮されるのはもちろん被害者自身の過失であるのが原則です。しかし、被害者本人の損害賠償額を定めるにあたって、被害者と一定の関係に立つ第三者の過失が考慮されることがあります。
例えば、配偶者の過失が考慮されることがあります。
最高裁昭和51年3月25日判決(民集30巻2号160頁)では、夫の運転する自動車に同乗する妻が夫の運転する車と第三者の運転する自動車との衝突によって損害を被り、当該事故について運転手の夫にも過失が認められる場合において、被害者である妻の損害額を算定するにあたって、夫婦の婚姻関係が既に破綻しているなどの特段の事情のない限り、夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができる旨判示しました。民法722条2項の過失相殺の規定は、不法行為によって発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものであるとして、被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失、いわゆる被害者側の過失を含むものと考えられているからです。
3.恋人の過失は考慮される?
上記2で見た裁判例からすると、今回取り上げたような同居もしていない恋人の過失はどのように考えられるでしょうか。
裁判例では、身分上、生活関係上一体をなすとみられる関係にあるかどうかを判断要素としております。今回、AとBは、事故の約3年前から恋愛関係にあったものの、婚姻していたわけでも、同居していたわけでもないので、身分上、生活関係上一体をなす関係にあったということはできません。
最高裁も、AとBは、身分上、生活関係上一体をなす関係にあったということはできないとした上で、Aの過失の有無及び程度(Aの過失は4割)は、YがBに対して支払うべき損害賠償額を定めるにあたって、Aの過失を斟酌して損害額を減額することは許されないとしました。
4.最後に
被害者側の過失については、被害者側の範囲が問題になることもあり、裁判例を調べるなどして慎重に対応した方が良いと思われます。
そのような場合には、弁護士に一度相談されてみてはいかがでしょうか。