1.はじめに

 こんにちは、弁護士の辻です。
 交通事故に遭うのは、何も人だけではありません。飼い犬の散歩中に、飼い犬が車に轢かれてしまうこともあり得ます。
 その場合、どのような賠償が認められるのか、実際の裁判例を見ながら、ご説明したいと思います。

2.ペットの怪我は物損である?

 まず、大前提となるのは、ペットに関して生じた損害は、人に関する損害ではないので、物的損害として扱われるということです。
 一般に、不法行為によって物が毀損した場合の修理費等については、そのうちの不法行為時に限る時価相当額に限り、不法行為との間に相当因果関係のある損害として認めるとされています。
 そのため、ペットの時価額相当額を上限とした治療費しか認められないのではないかが問題となります。

 また、物損については、修理費用等の財産的損害が填補されることによって損害の回復が果たされるのが通常であるから、原則として、物を損壊されたことにより被った精神的苦痛に対する慰謝料請求は認められない(大阪地判平成12年10月12日自保ジャ1406号4頁)といわれます。
 そのため、ペットが亡くなったり、それに匹敵するような怪我を負わされた時にも、慰謝料が認められないのではないかが問題となります。

3.ペットは家族

 しかし、ペットは家族の一員であるかのように扱われています。
 そのようなペットが、不法行為によって負傷した場合に、命を持つ動物の性質上、治療費を、必ずしもそのペットの時価相当額に限られるとするべきではなく,当面の治療費や、その生命の確保・維持に必要不可欠なものについては、時価相当額を念頭に置いたうえで、社会通念上、相当と認められる限度で、不法行為との間に相当因果関係のある損害に当たると解すべきであるとした裁判例があります(名古屋高判平成20年9月30日交民集41巻5号1186頁)。
 この事案は、6万5000円で購入した飼い犬につき、13万6500円の治療費等を損害として認めました。

 また、ペットを傷つけられたことによる慰謝料も、ペットが、飼い主との間の交流を通じて、家族の一員であるかのようになり、飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくないことから、そのような動物が不法行為によって、死亡したり、死亡にも匹敵する重い障害を負って、飼い主が精神的苦痛を受けた時は、それは社会通念上、合理的な一般人の被る精神的損害ということができ、修理費用等の財産的損害が填補されることによって損害の回復が果たされるとはいえないとして、精神的損害に対する賠償、いわゆる慰謝料を認めた裁判例があります(名古屋高判平成20年9月30日交民41巻5号1186号等)。

4.おわりに

 以上の裁判例からも明らかなように、ペットの損害は、法的には物損とされていますが、ペットの特殊性(生命であることや、家族の一員であることなど)を考慮し、通常の物損とは違った賠償が認められています。