1.労働能力喪失期間?
交通事故によって傷害を負って、病院で治療を行ったにもかかわらず、後遺症が残ってしまった場合、一定の条件を満たせば、加害者に対して後遺症によって生じる損害の賠償を求めることができます。
この後遺症によって生じる基本的な損害としては、慰謝料と逸失利益が考えられます。
慰謝料については、実務上定額化が図られており、基本的に後遺障害の等級に応じて支払われます。
これに対し、逸失利益とは、事故に遭わなければ得られたはずの収入を失ったことに対する請求ですので、事故に遭った人の職業等によって金額が異なります。
具体的な計算方法は、以下のとおりです。
事故の前に得ていた収入額(基礎収入額)× 労働能力が失われた程度(労働能力喪失率)× 減収が生じる期間(労働能力喪失期間)- 中間利息
したがって、労働能力喪失期間は、逸失利益の額を算定するにあたって重要な要素となります。
そこで、実務上、この労働能力喪失期間がどのように考えられているのか見ていきたいと思います。
2.基本的な考え方
損害賠償の対象となる後遺症は、傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待しえない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したときに、その程度が評価されることになります(「障害認定必携」参照)。
この状態のことを症状の固定といいます。
したがって、後遺症は生涯にわたって残存することが前提となっていますので、労働能力喪失期間は、就労可能な全期間とするのが原則といえます。
実務上は、67歳までを就労可能な期間として計算することが一般的になっています。
3.実務上の問題
労働能力喪失期間の基本的な考え方は、上記のとおりですが、実際に何歳まで就労を続けるのかは人によって異なります。
そのため、職業等によっては、67歳よりも後まで労働能力喪失期間を認めることもあります。
逆に、軽微な神経症状を理由とした後遺症の場合、将来的に症状が改善することがある、馴れによって労働能力が回復する、などとして、労働能力の喪失期間を5年ないし10年程度に限定されることもあります。
他にも、後遺症の内容によっては、認められる労働能力喪失期間が原則とは異なることがありますので、後遺症に関する損害賠償の請求についてお考えの方は、一度弁護士にご相談ください。
弁護士 福留 謙悟