1 改正道路交通法─自転車運転者講習命令、初の適用者─
平成25年6月公布、平成27年6月1日に一部施行された改正道路交通法において、危険運転を繰り返した自転車運転者に対し、公安委員会が、自転車運転者講習を受けるように命令することが出来るようになりました。
施行されてから約2か月ほどが経過しましたが、施行後初の命令が出されることになるようです。
大阪府警によると、男性は平成27年7月9日、同月15日に、大阪市西区のなにわ筋の交差点付近を前輪にブレーキのないピストバイクで走行していたとして、計2回、交通切符が交付されたそうです。
なお、男性は、1度目に切符が交付されたときは「買ったときから後輪にはブレーキがついており問題ないと思った」、2度目に切符が交付されたときは「近いうちに前輪にブレーキをつけようと思っていた」と述べたらしいです。
2 どこが改正道路交通法に違反したのか
以上の事実が本当であれば、道路交通法上、公安委員会は、この男性に対し、自転車運転講習を受けるように命令することができます。
道路交通法108条の3の4は、
「公安委員会は、自転車の運転に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこの法律の規定に基づく処分に違反する行為であつて道路における交通の危険を生じさせるおそれのあるものとして政令で定めるもの(次条において「危険行為」という。)を反復してした者が、更に自転車を運転することが道路における交通の危険を生じさせるおそれがあると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、その者に対し、三月を超えない範囲内で期間を定めて、当該期間内に行われる第百八条の二第一項第十四号に掲げる講習(次条において「自転車運転者講習」という。)を受けるべき旨を命ずることができる。」
としています。
長い条文ですが、要するに、公安委員会は、①自転車を運転している人が、②道路交通法に違反し、かつ、政令で定められた「危険行為」を③反復してした場合には、3カ月以内に自転車運転講習を受けるように命令することが出来るということです。
この男性が、①自転車を運転している人に当たることは問題ないため、公安委員会が、男性に対し、自転車運転講習を受けるように命令するには、男性の行為が②と③に当てはまるかどうかで決まります。
では、この男性は、②道路交通法に違反し、かつ、政令で定められた「危険行為」をしたのでしょうか。
ここでいう政令は、道路交通法施行令41条の3をいいます。
そこでは、14種類の道路交通法に違反する行為が「危険行為」として規定されています(詳しくは、「改正道路交通法」(平成27年6月19日付ブログ)を参照ください。)。
その14種類の中に、制動装置(ブレーキ)不良自転車運転(法第63条の9第1項)があります。
この男性は、後輪にブレーキがついているから問題ないと思ったと述べたそうですが、道路交通法上、ブレーキは、「前車輪及び後車輪を制動すること」(規則第9条の3第1号)とされていますので、後輪にしかブレーキがついていないピストバイクは、制動装置不良自転車にあたります。
そうすると、この男性は、前輪にブレーキがついていないピストバイクを運転していたので、制動装置不良自転車運転をしたことになり、②道路交通法に違反し、かつ、政令で定められた「危険行為」をしたといえます。
では、③反復してしたといえるのでしょうか。
改正道路交通法108条の3の4にいう「反復してした」とは、3年のうちに2回以上とされています。
この男性が、ひと月の間に2回、前輪にブレーキのないピストバイクで走行したのであれば、明らかに3年のうちに2回以上の危険行為をしています。
そのため、この男性は、③反復してしたといえます。
以上のように、この男性は、改正道路交通法108条の3の4の要件を満たしますので、公安委員会は、この男性に対し、自転車運転講習を受けるように命令することができます。
3 おわりに
自転車運転講習命令を受けた場合、講習手数料(標準)5,700円を支払い、3時間の講習を受けなければなりません。仮に命令に従わなかった場合、5万円以下の罰金刑に処されることになります。
危険行為をしないことは、当然大事ですが、もし自転車運転講習命令を受けたときは、きちんと受講しましょう。