交通事故の際、車に搭載していた物品が壊れた場合、これは補償の対象となるのでしょうか。
もちろん、車載品に関して特約を結んでいる場合にはこれで補償される場合もありますが、特約を付していない場合も多いでしょうし、特約でカバーされる損害額には上限があることがほとんどです。
交通事故についての損害賠償請求は、法的には不法行為に基づく損害賠償請求であり、事故と相当因果関係にある損害については、賠償責任の範囲内に入るのが原則です。
もっとも、その事故から通常生じる損害ではなく、特別な損害にあたると判断された場合は、事故時に、行為者がその損害を予見できた場合でなければ、賠償の対象とはならなくなるなどの問題があります。
したがって、極めて特殊で高価な積載物などがあった場合には、この辺りが争点化し得ます。
また、特殊な積載物の場合、仮に賠償責任の範囲内に入るとしても、その損害額をどう見積もるかが問題になることが多いです。
この点について争われたのが大阪地判平成19年3月27日交民40巻2号417頁です。
この事案は、信号待ちで停車中の普通乗用自動車に後方から普通乗用自動車が追突した、交通事故としてはある意味単純な事案です。
問題となったのは積載物で、被害車両はOA機器を積載しており、これが事故により損壊したことが被害者により主張されました。
被害者は加害者に対し、同機器が修理不能な程度に損壊したことから同等程度の代替品の購入費用、同機器で使っていたデータ用フロッピーディスクが使用できなくなり、そのデータの移行等の費用、当該OA機器の廃棄費用、及び同機器の喪失に伴う精神的損害としての慰謝料を請求しました。
これに対し加害者は、そもそも被害車両に当該OA機器が積載されていた証拠がないこと、仮に積載されていたとしても当該OA機器は30年近く前のもので無価値であること、データ移行費用及び廃棄費用はいずれ必要となったものであり、本件事故と相当因果関係のある損害とはいえないこと、などを反論しました。
以上の点について裁判所は、次のように判断しました。
まず、証拠からOA機器が被害車両に積載されていたことと、それが修理不能なまでに損壊されたことは認定できる。
OA機器の財産的価値については、①被害者が長年当該機器を愛着をもって使用してきたこと、②当該機器が本体、モニター、プリンタ等で構成されていたこと、③相当古いものであることは否定できないこと、などから10万円相当と評価するのが相当である(買替費用189万円は認めず)。
データの移行費用及びOA機器の廃棄費用については、本件事故と相当因果関係があると認められる。
慰謝料請求は認めない。
物質的損害に関する慰謝料請求は原則として認められないとするのが判例ですので、この点については特筆すべきものではありません。
もっとも、財産的価値の評価の際に何らかの考慮がなされた可能性はあります。
他方で、データ移行費用等が因果関係ある損害として認められた点は注目に値するといえるでしょう。
不法行為事案において因果関係の主張立証は常に困難がつきまといます。
不幸にして事故等に遭われ、損害の立証などでお困りの方は、是非弁護士法人ALG&Associatesにご相談下さい。