死亡逸失利益とは人が死亡したことによる収入の喪失です。被害者が死亡した時から、死亡しなければ稼働できたであろう期間に得ることができた収入の喪失であり、次の算式で算出されます。
死亡逸失利益 = 1年あたりの基礎収入 × (1-生活費控除率)× 稼働期間に対応するライプニッツ係数
死亡逸失利益については、死亡した被害者本人に死亡逸失利益の損害賠償請求権が発生して相続人に相続されるという考え方(相続構成)と、被害者の遺族に扶養利益の喪失などの固有の損害に関する損害賠償請求権が発生するという考え方(非相続構成、扶養利益構成)があります。
判例は、上記考え方のうち相続構成と非相続構成の併存を認める立場と解されています。
例えば、相続権のない内縁の配偶者については、将来の扶養利益の喪失を損害として損害賠償請求権を認めています(最判平成5年4月6日民集47巻6号4505頁)。
また、相続人からの死亡逸失利益の請求は相続構成により請求され認められることが通常ですが、相続人が相続放棄した場合に、扶養利益喪失による損害賠償を請求できるとした判例(最判平成12年9月7日裁判集民事199号77頁)があります。
この事案は、被相続人に多額の負債があったため、相続人が相続を放棄したのですが、被害者の配偶者及び子は固有の利益である扶養請求権を侵害されたものとして、相続を放棄した場合であっても、扶養利益喪失による損害賠償の請求を認めました(事案は交通事故に関する死亡ではありませんが交通事故の場合に判断が異なるものではありません)。
相続放棄をすると相続人とならず、被相続人の権利義務を承継しないということは一般の方にも良く知られています。そのため、相続放棄したため被害者の死亡により生ずる損害については一切請求できないと考えられる方(相続構成のみ)もいらっしゃると思い、本判例を紹介しました。