交通事故により被害者が死亡された場合、被害者が死亡したときから死亡しなければ稼働できた期間に得ることができたであろう収入については、死亡による逸失利益として損害賠償を受けることができます(生活費、中間利息の控除あり)。
では、交通事故の被害者が事故後に病死した場合、逸失利益の算定はどのようになされるのでしょうか。
死亡と交通事故との相当因果関係はないので死亡による逸失利益の賠償は受けられませんが、この被害者に後遺障害が存在していた場合、後遺障害による逸失利益の賠償を受けることができます。
このとき、原則は67歳までとされる労働能力喪失期間は死亡時までに限定されるのでしょうか。
67歳という平均的な稼働期間を前提として逸失利益を算定しているのは将来における被害者の稼働期間を確定することが不可能であるため擬制をおこなっているのであるから、交通事故と関係のない被害者の死亡という事実が発生し被害者の生存期間が確定した場合、死亡時までを労働能力喪失期間とする考え方もあります(東京高裁平成4年11月26日判決・判タ806号195頁)。
上記判決は、症状固定日から起算して7日後に被害者が心臓発作で死亡した事案について判断したもので、後遺障害による逸失利益は7日分しか認めませんでした。
しかし、上記判決は最高裁で争われ、最高裁は67歳までの労働能力喪失期間を前提として後遺障害による逸失利益を認めました(最高裁平成8年4月25日判決・民集50巻5号1221頁)。
その理由としては、①労働能力の一部損失による損害は、交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているので、交通事故後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではないことや、②交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部または一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害の填補を受けることができなくなることは衡平の理念に反すること、をあげています。