Q
個人事業主の父が死亡しました。
父は、X社が特許を有する技術の専用実施権を取得しており、これを用いて事業を営んでいたのですが、この事業を相続するにあたり、専用実施権も相続できますか。
また、そのためにはどのような手続きが必要ですか。
A
特許権も相続の対象であり、特許権者から専用実施権の設定を受けた者の権利(専用実施権者の地位)も相続の対象です。
したがって、質問前段に対する回答としては「可能」ということになります。
手続としては、特許庁長官に対し、遅滞なく「届出」を行う必要があります。特許権の設定や専用実施権の設定・移転等の効力は、特許庁の原簿登録が効力発生要件となっていることから、相続人は遅滞なく特許庁長官にその旨の届出を行わなければなりません。
以下、細かな点の解説と、その他知的財産権についても触れておきます。
専用実施権とは
特許権者は、業としてこれを実施することにつき独占的権利を有します。また、その特許を譲渡等により処分することや、その実施につき、他者に「実施権」の設定をすることも可能です(特許法68条、77条、78条)。
すなわち、有用な特許権を有する者にとっては、自らこれを実施し利益を得る方法、特許権を他者に譲渡してその対価を得る方法の他にも、他者にこれを実施させてその使用料等の対価を得るという手段があるのです。
専用実施権は、設定行為において定めた範囲においては、特許権者においても実施できないという、独占的な権利です(ただし、対抗できる通常実施権者はそのまま実施可能です)。
そのため、特許原簿への登録が効力発生要件とされています。
なお、専用実施権は、特許権の存在を前提とした権利であるため、特許権の存続期間(原則20年、特許法67条)満了により、共々消滅します。
その他の知的財産権
特許の他にも、実用新案権、意匠権、商標権等は、財産権の一種であり、相続可能とされています。
これらの権利も特許庁への登録が効力要件となっていることから、相続人は遅滞なく特許庁長官への届出を行わなければなりません(実用新案法26条、意匠法36条、商標法35条)。
他方、著作権については、その財産的側面たる著作権(≠著作者人格権)は相続の対象ですが、著作者人格権は相続の対象外です。
なお、著作権は登録手続なくして効力を生じる権利であるため、相続の場面でも届出等の手続きは不要です。