「公正証書遺言」も無敵ではない・・・?
~公正証書遺言が無効と判断された裁判例~

自らの死後、残された親族が自らの財産の遺産分割によって争うことのないよう、遺言を残されている方も多いのではないかと思います。その中で特に信用性があると考えられているのが「公正証書遺言」です(公正証書遺言がどういう性質の遺言かについては、当ブログ「遺言書の種類」をご参照ください。)。

しかし、大阪高裁平成26年8月28日判決は、亡Aが作成したという公正証書遺言について、その作成の経緯に関する事実を認定したうえで、無効であると判断しました。 当該裁判例の事案において、裁判所は、被相続人であるAが遺した公正証書遺言は次のような経緯で作成されたものと認定しております。

  • Aは、訴外弁護士Bに対して遺言書の作成を依頼し、Bによって文案が作成された。
  • Aは、Bとともに公正証書遺言作成のために公証役場に赴き、当該役場の待合室において、Bが作成した文案の内容の読み聞かせを受けて確認した。ただし、Bは遺言の文言をそのまま読み聞かせたわけではなく、難しい言葉をわかりやすい言葉に置き換えたうえで説明し、内容に間違いがないかを確認した。
  • Aは、Bからの確認に対して「はい」と答え、法定相続分以上に遺産を分け与える者がいることについては「同居してお世話になっているから」と述べた。
  • その後、Aは、公証役場の応接室において、公証人から遺言内容の補足説明を受けつつ、一条ずつ読み聞かせを受けた。その際、Aの手元には遺言書が置かれており、Aはうなずきながら公証人の読み聞かせを聞いていた。
  • 公証人からの読み聞かせのあと、Aは自ら遺言書に署名押印した上、Bも証人として遺言書に署名した。

このような作成経緯からすれば、Aは遺言の内容については十分理解していたようにも見受けられます。しかしながら、裁判所は、上記経緯によって作成された遺言については、公正証書遺言と認められる要件のうちの「遺言者が遺言の趣旨を公証人に『口授』すること」(民法969条2号)に該当しないと判断しました。
その理由として、当該遺言は、文案の作成自体からAが関与しておらず、当該文案を確認しながら作成されているため、公証人による読み聞かせに対してうなずいているだけでは、Aから公証人への遺言内容の伝達がないということを挙げています。なお、事前に文案作成者であるBから読み聞かせを受けたうえで内容を確認していたことについては、公正証書遺言作成時に公証人に要求される手続とは関係がないと判断しています。

本件以前には、古い判例ながら、遺言者が作成した書面に基づいて公証人が筆記を用意し、遺言者から「遺言の趣旨はさきに交付した書面の通りである」旨の陳述を受けたうえで、公証人が当該筆記をそのまま原本として読み聞かせて作成した公正証書遺言について、公証人への「口授」があったと認められた例があります(大審院昭和9年7月10日判決)。このことからすると、公正証書遺言の要件である「口授」があるかは、たとえ口語以外の方法であっても、遺言者自らの言動によって、公証人に遺言内容を伝達するとのプロセスが重要になると考えられます。

以上の裁判例等からすると、公正証書遺言を残したいと考えている方にとっては、多少の面倒が伴っても、自らの言動により意向を伝達することが重要ということがわかると思います。一方で、遺言の内容に疑義を持たれている方にとっては、仮に公正証書遺言が存在しても、その作成の経緯を検討しなおしてみるといいかもしれません。