“相続について何かお考えですか?”と質問を投げかけると、
「法律どおりで」とか「うちは争うほど財産がないんで」とお答えになる方が多いことに驚かされます。

しかし、亡くなる前に遺言書を書いておくことによって、
残された方が無用な争いに巻き込まれる可能性が大きく低下するのです。

相続争いは、多くの方がイメージされる通り、長期化・複雑化することの非常に多い類型の事件です。
実際、私が担当した事件にも、20年間近くもの間、泥沼の争いを続けられているケースもありました。
親の相続争いが解決したと思ったら、すぐ自分の相続の話になってしまったというケースも少なくありません。

相続争いが生じるきっかけとしてありがちなのが、
亡くなった方の銀行口座の解約・名義変更手続き等のために
「相続人全員の実印と印鑑証明」を集めないとならないときなのではないかと思います。
通常、銀行の運用では、公正証書遺言がある場合を除き、
ほぼ間違いなく「相続人全員の実印と印鑑証明」がないと相続手続をさせてくれません。
そのため、相続人全員の実印と印鑑証明が集まらなければ、
事実上金融資産が凍結されてしまうのです。

この点、「公正証書遺言」がある場合は、相続の分割方法が明らかになることから、
「公正証書遺言」に基づいて手続きがされるので、このような心配がありません。
逆に言えば、同じ遺言でも、「自筆証書遺言」を作成していた場合は、
その遺言の真正が争われる場合があるとの理由で手続きさせてもらえないのです。

この事実だけでも「公正証書遺言」がいかに優れているかわかります。

ところで、「公正証書遺言」とは何なのでしょうか。「自筆証書遺言」とは?

これから、7回に分けて、「公正証書遺言」の重要性や必要性について考えていきます。
弁護士として、非常にたくさんの争いを目にしてきた私たちとしても、
相続をめぐるトラブルを少しでも減らしていく一助となれば幸いです。