遺留分とは、遺族の生活の安定や最低限度の相続人間の平等を確保するために、民法で定められた相続人の最低限の相続の権利です(民法1028条)。 被相続人の遺言や生前贈与によって遺留分よりも取り分が少なくなった相続人は、遺留分を侵害している相続人に対して請求することで、一定割合の財産を取り戻すことができることになっています(民法1031条 遺留分減殺請求権)。
経営者が円滑に事業承継を行おうとする場合に、この遺留分の存在が障害となる場合があります。すなわち、経営者が後継者を定め、事業承継を図ろうとした場合、遺言や生前贈与によって、自身の財産(主として株式になると思われます。)を後継者に与えることが多いといえます。
この遺言や生前贈与に対して、経営者の遺族から後継者に対して遺留分減殺請求がなされると、相続紛争が勃発し、場合によっては、株式や事業用資産が分散してしまい、経営における意思決定や事業の運営が阻害されるという問題が発生し得ます。
では、このような問題を予め防ぐにはどうすればよいでしょうか。
まず、考えられるのは、遺留分の放棄の制度を利用することです。すなわち、遺留分を有する相続人は、被相続人の生前に遺留分を放棄することができます(民法1043条)。後継者以外の相続人に遺留分の放棄をしてもらうことによって、遺留分によって生じる問題の発生を防止することができます。
もっとも、遺留分を放棄するためには、家庭裁判所に対して、放棄する相続人自らが申立をして許可を得る必要があります。遺留分の放棄は、相続人にとってデメリットであるのに、さらに面倒な手続きを相続人に期待するのは難しいといえるため、実際にはあまり利用されていません。
このように、遺留分の放棄という方法は容易ではないことから、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律が、遺留分に関する民法の特例を定めています。
すなわち、先代経営者の推定相続人全員が、対象自社株を遺留分算定の基礎財産に算入しない旨の合意(除外合意)をした場合に、対象自社株を遺留分減殺請求の対象から外すこと(経営承継円滑化法4条1項1号)が可能となります。
この特例を利用するためには、推定相続人の合意を取得した後、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を取得する必要があります(経営承継円滑化法7条1項、8条1項)。
手続きが煩雑ではありますが、推定相続人の合意さえ得れば、メリットを享受する後継者が単独で手続を行うことができるという点で、遺留分の放棄よりもいくぶんか実効性があるといえます。
遺留分は遺族の生活保障のための重要な制度ですが、円滑な事業承継ということを考えた場合、“紛争の種”となり得ます。
後継者に対して事業承継を考えている方は、専門家の援助が不可欠といえます。事業承継でお悩みの方は、一度弁護士法人ALGにご相談ください。