相続に関する法制度は各国で異なり、国外においては日本の相続の常識は通用しないこともあります。
たとえば、日本法では不法行為に基づく損害賠償債務は相続されますが、カリフォルニア州法では、日本と相続法制が異なり、債務の相続は認められていません。
日本人Yが、日本で、自動車運転の過失により、日本人Xに対して重度な行為障害を与え、自らは死亡したというような場合、XのYに対する不法行為に基づく損害賠償債務は、Yの相続人Zに相続されますから、基本的に、XはZに対して損害賠償請求をすることができます。それでは、この事故がカリフォルニア州で生じた場合は、どのように処理されるのでしょうか。
この場合、相続に関する準拠法は、日本法が適用されます(法の適用に関する通則法36条)。一方で、不法行為に関する準拠法は、不法行為地であるカリフォルニア州法が適用されます(法の適用に関する通則法17条)。
そうすると、相続に関する準拠法である日本法によれば、XはZに対して損害賠償請求をすることができますが、不法行為に関する準拠法であるカリフォルニア州法によれば、XはZに対して損害賠償請求をすることができないということになります。さて、どのように処理されるのでしょうか。
この問題について、大阪地判昭和62年2月27日は、相続準拠法である日本法が不法行為債務の相続性を肯定しているとしても、不法行為債務固有の準拠法であるカリフォルニア州法がその相続性を認めない以上、不法行為債務は相続されず、XはZに対して損害賠償請求をすることはできないと判断しています。
相続に限らず、国際的な法律問題は、日本法の下では想像もできないような結論が待ち構えている場合もありますから、弁護士に相談されることをお薦めいたします。