こんにちは。少しずつ寒くなってきて秋を感じる今日この頃です。
さて、本日は、相続財産をひとりで占有している相続人がいる場合、何かできるのか、という側面のお話をしようと思います。

具体的にいうとこういうパターンです。父と長男が父名義の土地建物で同居していたところ、父が亡くなった。相続人は、長男、二男、三男の3人。父の死後も長男だけが父名義の土地建物を使っている。
もし、二男、三男がそれぞれ家族をもって借家に住んでいるとしたら、家賃の節約のために父名義の土地建物に住みたい、長男だけただで土地建物を使うのはずるい、と思うかもしれません。
二男、三男は、長男に対して、父名義の土地建物を明け渡せ、自分たちにも使わせろ、といいたいところです。ではこのような明渡請求ができるのでしょうか。

このような請求は、判例上、当然にはできないということになっています(最高裁昭和41年5月19日判決)。上記の例では、長男、二男、三男は法定相続分は3分の1ずつですから、長男:二男+三男=1:2で、二男+三男グループのほうが持分が多くなるので、二男+三男が長男に対して、過半数の力で明渡請求できそうな感じもします。しかし判例は、持分が過半数に満たない者(長男)が他の共有者(二男、三男)の協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権限を有するものではないが、他の共有者(二男、三男)の持分の合計が過半数を超えるからといって当然にその明渡を請求できるものではないと言っています。その理由は、長男も自分の持分によって共有物を使用収益する権限を有するから、とのことです。多数派(二男、三男)が少数派(長男)に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないとされています。

次に二男、三男の主張として考えられるのが、長男がひとりで父名義の土地建物を使用しているのだから、長男の持分を超えて使用収益しているとして、その超えた分は不当利得になるから賃料相当額を払え、というものです。 しかし、これも、判例(最高裁平成8年12月17日判決)は否定しています。その理由づけは次のとおりです。

もともと被相続人(父)と同居の相続人(長男)の間で、被相続人死後に遺産分割で不動産の所有関係が確定するまでは引き続き同居の相続人に不動産を無償で使用させる旨の合意(使用貸借の合意)があったものと推認される。被相続人死後は、同居の相続人を借主、それ以外の 相続人を貸主とする使用貸借契約が存在することになる。したがって不当利得とはならない。

こう見てみると、二男、三男は不動産を使えないし不動産から利益も得られないという感じがしますが、このような判例があるということを踏まえて、父死後のために兄弟で事前に調整しておくとか、父が自分の死後に兄弟で争わないように遺言を残しておくなどの準備をしておくべきだった、ということになりますね。