事例

 Aさん(55歳)は先日、82歳のお父様を亡くしました。お母様は既に他界していたため、Aさんと、Aさんのお兄様であるBさん(58歳)とで、遺産分割を行うことになりました。遺産分割協議のためにAさんがBさんのお家を訪れると、Bさんは、
「おやじは、全部で1億円の価値のある土地と建物の他、預金も100万円残してくれた。でも、X銀行からの借金が9000万円もある。この借金は俺が全部返済し、おやじの不動産は全部俺が相続する、代わりに、預金100万円はお前が相続する、という方法でどうだ?」
と提案してきました。

 Aさんは、「返済手続も面倒だし、借金について責任を負わないで100万円も相続できるのならお得ね。でも、何か引っかかるわ・・・。」と悩んでいます。

 果たして、AさんはBさんの提案をすんなりと受け入れても大丈夫なのでしょうか。

 実は、このBさんの提案には重大な落とし穴があるのです。
 したがって、Bさんが、お父様が遺した不動産を上手く売れなかったり、売れたとしても私的に使ってしまったりして、お父様が遺したX銀行への借り入れを返済できなかった場合には、AさんもX銀行に対し4500万円の限度で支払い義務を負うことになります(AさんがX銀行に4500万円返済した後に、AさんがBさんに対し4500万円を支払うよう請求することは可能ですが、Bさんに支払う資力がない危険性は大きいでしょう。)

 以上のように、Bさんの提案には大きな危険性があるため、Aさんとしては少なくとも、

① X銀行との間で、Bさんに債務を引き継がせる旨の免責的債務引き受け契約をし、かつ、
② 相続不動産に抵当権が設定されていた場合にはBさんのみを債務者とする変更登記をしてから、
Bさんの提案に乗るべきです。

 遺産分割協議では、一方の都合のいい提案をされて、後で泣きをみることも珍しくありません。ご自身ではお気づきになることが困難な落とし穴もある可能性がございます。遺産分割協議の際には是非一度ご相談ください。