こんにちは。
相続に関する問題はある日突然やってくるものですが、今回は多くの方が見過ごしやすい「死亡後、遺産分割協議成立までの賃料債権の問題」について扱いたいと思います。
相続の対象として不動産があることは多く見られることですが、その中でも、不動産を第三者に賃貸していた場合に、当該賃貸借契約に基づく賃料債権の取り扱いが問題となります。
遺産分割協議では当該不動産を誰の所有とするかについては当然に話し合われることですが、相続開始後、遺産分割協議成立前までの当該不動産から発生する賃料債権についは、特に気にされない方が多く、遺産分割協議書に何ら記載がないことが多いのです。
この点、当該賃料債権については、当該不動産を取得した者が当然に取得すると考えておられる方が多いようです。
しかし、実際にはそう単純な話にはなりません。
法的に見てみると、相続開始後、遺産分割協議成立までは、不動産は法定相続分の割合に応じた共有状態にあると考えられます。
すると、そこから発生する賃料債権も、法定相続分の割合に応じて帰属すると考えられるのです。
そして、賃料債権は、金銭債権であることから、分割が可能であり、遺産分割協議を待たずとも、当然にそれぞれの相続人に割合に応じて帰属するということになります。
なお、遺産分割協議後は、単独所有になることから、発生する賃料債権については、当該所有者単独に帰属するということになります。
この点について、最一小判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁では、相続開始後、遺産分割協議成立前までの賃料債権については、遺産分割協議で当該不動産を取得したとしても、当然に取得者に帰属するわけではなく、遺産分割協議の対象となる「遺産とは別個の財産」である、と判断しました。
遺産分割協議の対象となる「遺産とは別個の財産」であるということからすれば、賃料債権は、遺産分割協議の対象とせずとも、当然にそれぞれの相続人に確定的に帰属するということになります。
以上からすれば、賃料債権のうち、
①相続開始前にすでに発生したもの
遺産分割協議の対象となる遺産
②相続開始後、遺産分割協議成立までに発生したもの
遺産分割協議の対象とはならない財産
③遺産分割協議後のもの
不動産の所有者に帰属するもの
という形に整理できます。
なお、遺産分割協議の対象となる遺産ではないとしても、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議の中で、帰属を決定することもできます。
しかし、その際には遺産分割協議書内に具体的に帰属について記載せねばならないと考えられ、記載としてよく見られる「上記の財産以外のすべての財産(債権・債務)については、○に帰属するものとする」といった記載では不十分であると判断される可能性もあります。
遺産分割協議書にはその他にも見落としやすいさまざまな問題がありますので、作成の際には、法律を熟知した弁護士等の専門家にご依頼されることをお勧めいたします。
弁護士 中村 圭佑