ある人の突然の死亡によって開始される相続では、亡くなった人にどのような親族関係があったのか、相続開始後に本人に確認することはできません。そのような相続において、実は相続人ではない者が相続をしていたことが判明した場合、財産を取り戻す方法はないのでしょうか。

例えば、以下のような事案で考えてみましょう。
一家の大黒柱であり、よき父であったAが亡くなり、Aの妻Bと子Cは悲しみに暮れていました。そんなある日、Aと不倫関係にあったというXとの間に生まれた子であると名乗るZが現れ、Aの子であることが記載された戸籍を提示してきたとします。
それまで3人だけの家族だと思っていたB、Cは驚愕し、Aに幻滅しました。しかし、B,Cは「戸籍にも記載されているのであれば仕方がない。Aの過去の過ちによるもので、Zに罪はないだろう。」と考え、Aの遺産を、法定相続分にしたがって、Zにも分割しました。
その後、Aの死亡から長い年月が経過したある日、Cが、街角でばったり出会ったZ本人から、実は、ZはAとの間に血のつながりはなく、XがAではない別の男性Yと関係を持った際に妊娠した子であるにも関わらず、Xがそれを隠して「Aの子を妊娠した、認知をしてくれなければ自分との関係をBにばらす!」として認知を迫ったために、観念したAが任意に認知をして、法律上の親子関係が成立したに過ぎないということを聞かされました。

このような事案において、BまたはCから、Zに対して、実際には相続人でないのに相続人として遺産分割を受けたのだから、これにより取得した財産を返還するよう求めるための制度が、民法上の相続回復請求(民法884条)となります。
B、Cは、Zに対して、ZがAの子ではないにもかかわらず相続したということを知った日から5年以内に請求をすることで、Zが相続した財産の返還を求めることができます。ただし、仮にそのような事実を知ることなく時間が過ぎてしまい、相続開始時(Aの死亡時)から20年が経過してしまうと、相続財産をめぐる法律関係の早期確定等の観点から、相続回復請求は行えなくなってしまいます(民法884条)。

このように、民法では、真実は相続人でない者が相続した場合、その財産の返還を求める権利が定められていますが、遅くとも相続開始時から20年以内に請求を行なう必要があります。相続回復請求は、上記のような、虚偽の認知がされた場合の他、無効な養子縁組がされたのに戸籍上は養子となっている者、相続欠格事由のある者、被相続人から廃除された者(欠格・廃除については、当ブログ「欠格と廃除」をご参照ください。)等に対して行使できると考えられます。
では、このような相続回復請求は、真実、相続人ではあるものの、自らの相続分を、虚偽の事実を述べることで過大に相続していた共同相続人に対しても行使することができるのでしょうか。また、その際にも同様の期間制限が課されるのでしょうか。
この点については、紙幅の都合上、次回に紹介しようと思います。