こんにちは。
高齢化や様々な影響から、社会全体が遺産相続や遺言作成への関心の高まりをみせておりますが、いざ自らも遺言を作成しようと思っても、どのように作成すればいいか分からないという方が多いかと思います。
今回は、これから遺言を作成をしようと考えている方に向けて販売されている、“遺言キット”についてご紹介したいと思います。
市販されている一般的な“遺言キット”は、これから初めて遺言を作成する人に向けた遺言作成マニュアルに加えて、遺言書用紙、封印用の封筒等がセットになったもので、1000円から3000円程度の価格帯で文房具店等にて販売されています。
この“遺言キット”を利用して作成された遺言は、法律上、自筆証書遺言という形式の遺言となります。
自筆証書遺言は、全文を手書きで書くこと、日付と氏名を書くこと、押印をすることといった形式的な要件が全てそろわなければ法的に有効なものとはなりません。
もっとも、“遺言キット”に同封されている遺言作成マニュアルに、これらの遺言作成にあたって気をつけなければならない要件はきちんと記載されていますので、初めて遺言を作成しようと考えている人でも、一人で気軽に遺言を作成することは可能です。
また、封印用の封筒もセットになっているので、遺言作成にあたって形式的に有効でない遺言を作ってしまうという事態は極力避けることができるでしょう。
しかしながら、“遺言キット”を過信しすぎることも禁物です。
“遺言キット”に同封されている遺言作成マニュアルに誤りが記載されていることはないでしょうが、“遺言キット”を使って一人で遺言を作成するということは、形式的に有効な遺言を作成できているかの確認をすることも自分自身で行うということです。作成から確認まで一人で行うという点で、せっかく作成した遺言が確認不足のために法律上の要件を満たさなかったということもありえます。
また、“遺言キット”は、あくまでも遺言作成にあたって形式的に有効な遺言を作成するためのものです。遺言の内容が妥当なものか、被相続人の死亡後に遺言内容をめぐって相続人間でトラブルを引き起こさないかという内容面に関する問題は、“遺言キット”を使用したから問題を未然に防げるというものではありません。
形式面で有効な遺言を確実に作成し、内容面で充実した遺言を作成するためには、作成した遺言を弁護士や司法書士といった専門家に確認してもらう必要があるでしょう。
さらに、“遺言キット”を使用して作成された遺言も、自筆証書遺言であることには変わりありませんので、検認手続きや封印された遺言の開封手続きは、家庭裁判所で行わなければなりません。“遺言キット”を使用することによって、被相続人の死亡後の相続手続きが簡易なものになるというわけではありません。
相続開始後の手続きを簡易なものにして、速やかに相続を行ってもらうためには、公証役場で行う公正証書遺言によることが最も妥当な方法です。公正証書遺言であれば、法律の専門家である公証人が、遺言の形式面だけでなく、遺言の内容面についても遺言の作成に先立って親身に相談に乗ってくれるため妥当な遺言を作成することができます。
今回ご紹介した“遺言キット”をはじめ、遺言作成のためのマニュアル本やインターネットサイトの普及により、遺言はより身近なものとなりました。
もっとも、遺言そのものが故人の最後の意思表明の場であり、残された相続人に多大な影響を与えうるものであることには変わりありません。
“遺言キット”の購入代よりはいささか費用がかかりますが、遺言の作成にあたっては、“遺言キット”のみで十分とは考えず、弁護士等の専門家への相談や公正証書遺言の作成を検討されることをおすすめします。