A.
長男が認知症の父の代わりに、自分で筆をとって作成された遺言書は無効となります。
遺産分割は、まず相続人間の協議で行われます。相続人間での協議がまとまれば、その内容通りの遺産分割が行われますが、協議がまとまらなかった場合には、家庭裁判所に遺産分割調停又は審判を申し立てることになります。

質問の解説

1 遺言書の有効性

 民法960条は、「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と規定しています。つまり、遺言の方式は、法律で厳格に定められており、法律で定められた方式に違反した遺言は無効となります。

 遺言の具体的な方式は、民法967条から984条まで列挙されており、今回の事例では、自筆証書遺言(民法968条)の有効性が問題となります。そして、民法968条1項には、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自署し」と規定されています。長男が父親の代わりに自分で筆をとり遺言書を作成した場合、上記の方式に違反することになりますから、遺言書は無効となります。仮に、長男が「遺言書の内容は、生前父が言っていたことをそのまま記載したものだ。」と主張したとしても、無効です。

2 遺言が無効な場合の相続の進め方

 まず、長男が遺言書は有効であると主張している場合、遺言無効確認の訴えを提起して、遺言の無効を確定させます。長男が遺言の有効性について争わなければ、訴訟を提起する必要はありません。

 次に、遺言の無効が確定すると、遺産分割手続に移行することになります。今回の事例では、遺言書は無効ですから、法定相続分(民法900条)にしたがって遺産分割手続が進められるのが実務上オーソドックスといえます。もっとも、遺産分割は相続人間の全員の合意があれば、法定相続分にしたがうことなく、自由に行うことができます。ですから、まずは相続人間で遺産分割協議を行い、協議がまとまらなければ家庭裁判所に遺産分割調停又は審判を申し立てるという流れになります。通常、遺産分割審判を申し立てても、調停に付される可能性が高いというのが実務上の運用です。