Q: 私は先祖代々農家をしており、出来ることなら、私の後を継いで農家になってくれた次男に、なるべく多くの財産を継がせたいと考えています。次男に対してはすでに私名義の農地を譲渡しているのですが、遺言書に「持戻し免除」の意思表示を記載することで、他の子らの遺留分減殺請求を回避できますか。また、他に相続争いを未然に回避する方法はありませんか。

A: 持ち戻し免除の意思表示は、遺留分算定においては考慮されません。また、被相続人の生前に予め相続放棄を行うことは出来ず、相続人排除には厳格な要件があります。したがって、未然に相続争いを回避する方法としては、遺留分を予め考慮した遺言書を作成しておくことに尽きるでしょう。

 以下は、各用語の説明です。

 相続財産の範囲は、相続開始時、すなわち被相続人の死亡時点における財産とされることが原則です。もっとも、共同相続人に対する生前贈与のうち、一定の要件に該当するものについては、遺産分割や遺留分減殺請求の場面で、「特別受益」として「持戻し」の対象とされます。

 特別受益とは、共同相続人の中に被相続人からの贈与等により特別の利益を受けた者がいる場合につき、本来相続財産の範囲外である当該贈与(被相続人の死亡時点において、被相続人の財産でないため)等の財産について、これを相続財産に含めて計算(=持戻し)することにより、共同相続人間の公平を図るものです。

 生前贈与全てがこれに該当するわけではなく、生計の資本としての贈与が対象です。生計の基礎に役立つような、一定程度まとまった財産の贈与がこれに該当します。農家の農地は典型例の一つですし、そもそも不動産は財産的価値が高いことから、これに該当する場合が多くみられます。

 

 その贈与が特別受益にあたるとしても、被相続人は持戻し免除の意思表示をすることが可能です。その方式に制限はありませんが、後々争いとなることを防止するためには少なくとも書面でこれを行っておくべきでしょう。

 もっとも、この持戻し免除の意思表示は、遺留分算定においては考慮されないのです(民法903条3項、最高裁平成24年1月26日判決参照)。

 したがって、設問の事例では、予め遺留分を算定の上、これを考慮した遺言書を作成する必要があるでしょう。(なお、遺留分価格算定の基準時は、現実に弁償が行われた時点(訴訟では事実審の口頭弁論終結時)ですので、地価が暴騰した場合のような特殊事例をも想定すると、紛争の未然防止は100%とまで言いきれるものではありません。)