Q: 先日死亡した父の相続について質問します。父の両親はすでに他界しており、親族は一人娘の私と父の兄がいるのみです。父には300万円の預金があるのですが、現在判明しているだけで200万円の借金もあります。父は個人から借金することが多く、もしかすると後から債権者が出てくるかもしれません。どのように対処するべきでしょうか。

A: 非常に判断の難しい事案です。相続債務が200万円に確定可能であれば、単純承認した上で、相続債務を弁済し、残り100万円を取得することも考えられます。

 もっとも、個人からの借入れは、一般的に調査困難な場合が多いものです。  いわゆるサラ金や銀行、信販会社からの借入れであれば、KSC(全国銀行個人信用センター)やCIC(CREJIT INFORMATION CENTER)、JICC(日本信用情報機構)などに照会をかけることで、相続債務の調査をすることも考えられます。
 しかし、個人からの借入れでは、被相続人の住居内に督促状や借用書などがないか、通帳に返済の履歴がないか、日記等に借入れに関する情報がないか、所有する土地などに担保権が設定されていないかなど、地道な調査を行うほかありません。

 したがって、個人からの借入れの蓋然性が高く、後に債権者があらわれる危険もぬぐいきれない状況では、①相続放棄や、②限定承認も検討しなければなりません。

相続放棄のメリットとデメリット

 ①相続放棄の場合、裁判所に対し、相続放棄の申述を行うことになります。メリットとしては、手続の簡明さと、後に債権者が名乗り出た場合にも簡潔に解決可能という点が挙げられます。

 他方、デメリットとしては次の二点が考えられます。
 まず、本件は、結果として相続債務は200万円のみという可能性もある事案であるため、差額の100万円を取得できなくなることは、結果論的ではありますがデメリットと言えます。
 さらに、第1順位の単独相続人である質問者(娘)が相続放棄をすることにより、次順位相続人である父の兄が相続を承認するか放棄するかの選択を迫られることにもなります。

限定承認のメリットとデメリット

 ②限定承認は相続財産の範囲内でのみ、相続債務を承認するというものです。相続人全員で行う必要がありますが、本件第1順位相続人は質問者(娘)のみですので、単独で行うことができます。

 メリットは、他の債権者が名乗り出なければ、現在判明している相続債務200万円を弁済した残額100万円を取得しうるという点でしょう。その他にも、第1順位相続人の時点で相続関係を処理することが出来ることから、被相続人の兄が放棄等の選択をする必要がない、という点もメリットと言えます。

 他方、デメリットもあります。一つは相続財産管理人として、債権者に対する通知や官報公告、債務弁済等を行わなければならないという手続的な負担です。相続人複数の場合は相続人の中から管理人を指定することになりますが、本件は単独相続人の事案ですので、おのずから質問者(娘)がその責務を負うことになります。

 さらに、官報公告期間満了後に名乗り出た債権者に対しても、相続財産の範囲内については責任を負うという点も注意しなければなりません。そのため、公告期間満了後も、事実上、差額の100万円を塩漬けにせざるを得ないとも考えられるのです。
 とはいえ消滅時効が確実に完成するであろう10年後まで、新たな債権者が名乗り出なかった場合のように、将来的には自由に使うことが出来る可能性もあります。

 このように、手続的に大きな負担を覚悟の上で、限定承認を選択し、差額分の取得の可能性にかけるのか、それとも相続放棄を選択するか、はたまた、リスクを承知の上で単純承認し、運を天に任せるのか、いずれを選択するかは、被相続人の状況の他、相続人の考え方にもよるでしょう。