事例検討(2015年4月3日に投稿)の続きです。
Q 先日、義理の母が亡くなりました。私は、長い間、妻とともに、重度の認知症となった義理の母の介護を行ってきました。私は、義理の母の遺産分割協議において、私と私の妻が介護してきたことを主張して、遺産を多くもらうことはできるのでしょうか。
ちなみに、義理の母の相続人は、妻と、妻の兄の2人です。
A 前回、⑴そもそも寄与分って何なのか、⑵誰が寄与分を受けることができるのかについて検討しました。今回は、⑶「私」と「私の妻」が行ってきた介護は、「寄与分」が認められる行為なのかどうかについて検討します。
⑴ 寄与分が認められる行為って?
寄与分は①特別の寄与であること、②被相続人の財産の維持又は増加に向けたものであることが必要です。
①特別の寄与とは
「特別」である必要があります。被相続人と相続人の身分関係に基づいて「通常期待されるような程度を超える貢献」である必要があります。
したがって、夫婦間の協力扶助義務(民法752条)、親族間の扶養義務・互助義務(民法877条1項)の範囲内の行為は、「特別」の寄与にはなりません。例えば、単に同居して親の面倒を見ていた、親の入院中に世話をした行為のみでは難しいのです。
②財産の維持または増加とは
相続人の行為によって、維持(その行為がなければ生じたはずの被相続人の積極財産の減少や、消極財産の増加が阻止されること)、又は増加(その行為がなければ生じなかったはずの積極財産の増加や消極財産の減少がもたらされること)することが必要です。
具体的な財産の増加や、余計な出費が減ったことが必要で、精神的な援助・協力は、寄与として考慮されません。
⑵ 寄与行為の態様
寄与行為の代表的な態様は、次のとおりです。
- 家業従事型
家業である農業、商工業などに従事することによって寄与が認められることが必要です。 - 金銭等支出型
被相続人の事業に関して財産上の給付をした場合などです。たとえば、不動産購入資金の援助、医療費や施設入所費の負担をしたなどと主張されます。 - 療養看護型
相続人が、病気療養中の被相続人の療養看護に従事したという場合です。ただし、「特別の寄与」である必要がありますから、単に同居して面倒を見ていた程度では寄与分は認められません。 - 扶養型
相続人が被相続人の扶養を行い、被相続人が、生活費などの支出を免れたため、財産が維持された場合です。例えば、毎月の仕送り、同居して衣食住の面倒を見ていた主張がなされます。 - 財産管理型
財産を管理することによって財産の維持形成に寄与した場合です。賃貸管理などが主張されます。
最後に――事例の検討
具体的事例において、寄与分が認められるかどうかについては、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮します。 本件事例は、上記寄与行為の態様のうち、「療養看護型」に該当します。
まず、「特別」の貢献というために、療養看護の必要性、療養看護を要する程度及び期間をみて相当高度といえることを主張し、さらに療養看護が無償でなされていること、片手間ではなく専従的になされていたことなどを主張します。
これに加え、被相続人の財産を「維持又は増加」したと言うために、実際に看護費用の出費を免れたことなどを主張します。
Cは、医師の診断や要介護認定などを根拠に、Aが重度の認知症で療養看護が必須の状態であったことを主張し、さらに、Dとともに相当期間、無償で、専従してきたことなどの事実を主張していくことになります。そして、Aの預金口座などを示して、Aの財産が減っていないことを主張します。
寄与分の主張は、相当程度の期間の寄与行為の事実について主張するものであるため、資料収集に苦労することが多いです。寄与分に関する疑問がありましたらお気軽にご相談ください。
弁護士 江森 瑠美