民法の離婚事由の一つに、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」(770条1項4号)があります。これは、具体的にどういうときに離婚原因として認められるのでしょう。
まず、強度の精神病とは病気の程度が夫婦の同居協力扶助義務に違反するほどに重症である状態をいい、かつ、病気の程度は回復の見込みがないものであることが必要であると考えられています。
さらに、民法770条2項では、離婚事由があっても裁判所は裁量により離婚請求を棄却できる旨定めており、この観点から判例では、770条1項4号の事由が主張された場合に請求を認容するためには、「病者の今後の療養、生活などについての具体的な方途を講じ、その見込みのついたことが必要である」(最判昭和33年7月25日民集12巻12号1823頁)との考えを維持しているようです。
実際には770条1項4号の要件が厳しいため、同号で離婚事由があると認められたものは多くなく、4号としては認められないが5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」として離婚が認められるというケースが多いようです。
具体的な裁判例をみてみると、妻(アルツハイマー病に罹患し、後見開始の審判申立にあたっての精神鑑定において認知症の程度は重度で回復の見込みがないと判断された)に対する夫からの離婚請求の事案において、4号に該当するか否かについては疑問が残るため、4号による離婚請求は認容し難いとしながら、長期間にわたり夫婦間の協力義務を全く果たせないでいることなどによって婚姻関係が破綻していることが明らかであるとして5号による離婚請求を認容したものがあります。
その判断の際、夫が離婚後も妻の経済的援助及び面会などを考えていることや、妻の入所している特別養護老人ホームの費用も離婚後は全額公費負担になるなどの事情を考慮しており、先程述べた「具体的方途を講じ、その見込みがついたこと」(最判昭和33年7月25日民集12巻12号1823頁)を当該離婚請求の判断要素として考慮しているようです。
このように、実際の裁判においては、精神病に罹患していることが離婚原因として主張された場合、5号の事由として判断する場合であっても、具体的方途を講じその見込がついたか否かということを一つの判断要素としているようです。