皆様、こんにちは。
1 イントロ
お子さんのいる方の離婚でしばしば争点となるのは親権ですが、仮に親権者が夫婦のうちのどなたかに決める予定(決まりそう)であったとしても、養育費の金額をどうするかについては双方にとって重大な問題です。
中でも、教育熱心な親御さんは、離婚することで、このまま子供達を今の状態で学校に通わせ続けてもいいのか、はたまたお子さんが希望する進学先へ行かせることができるのか、大変気になるところかと思います。
今回はなかなか耳触りの良い話というわけにはいきませんが、養育費算定における学費の扱いについて簡単に紹介いたします。
2 養育費の算定方式
養育費の算定方法は決まりはありませんが、標準算定方式が広く採用されています。
しかし、いきなり当然そうに言われても、「標準算定方式」ってなんのこっちゃ?というのがおそらく一般の方々の率直な感想でしょう。
養育費を負担する者(以下「義務者」といいます。)の基礎収入から親と子の標準的な生活の指数に基づいて子の生活費を割り出し、これに義務者の基礎収入を義務者の基礎収入と請求する側(以下「権利者」といいます。)の基礎収入を合算した金額で割って算出された数値を乗じて、養育費を算定する方法です。
一遍に言葉にすると非常にわかりづらいですが、要は義務者と権利者の収入額をベースに、一般に子供の養育に必要とされる割合(指数が決められており、親が100であるのに対して14歳以下の子は55、15歳以上の子は90となっています。)に基づいて養育費を計算して決めてしまう方式です。したがって、親双方の収入額で養育費の金額が左右されることになります。
3 子供の学費は考慮されているのか
(1)もっとも、子供の養育に必要とされる割合といっても、本来は各家庭におけるお子さんの養育に必要な金額の全体に占める割合はそれぞれ異なるはずです。その典型例として、お子さんが公立の学校に通う場合と私立の学校に通う場合の学費の違いが挙げられます。
一般に私立の学校に通うお子さんの数は詳しくはわかりませんが、中、高、大と進学するにつれて割合的に相当数になることは感覚的にわかりますし、必要な費用が公立校より上回ることも一般に知られています。そうすると、お子さんの通う学校が公立と私立で異なる場合、必要な学費が変わるわけだから養育費も変更すべきではないか?という議論は出てもおかしくないところです。
(2)先の標準算定方式は公立の学校に通うお子さんを前提としています。したがって、私立に通うお子さんを想定していません。
もちろん、義務者側が私立に通うお子さんを案じて、公立校よりも授業料を加味した金額で養育費を払ってくれるのであれば、当事者間の合意ができて、めでたしめでたしということになります。
問題は全く合意ができない場合です。結論的には難しいといえます。
例えば、元妻が離婚後に娘を私立の高校に入学させたところ、元夫は元々公立の高校に進学させるつもりだったのにこちらと全く相談せずに勝手に進学させたので入学金等の諸費用ははらわらないと争った審判例があります。
裁判所は、費用負担者に無断で高等学校や大学等の義務教育を越える教育を受けさせることを一方的に決めて、その費用を費用負担者である元夫側に求めることは認められないと判断しました(神戸家庭裁判所平成元年11月14日審判)。
ただし、この審判例は費用負担者である父親の資力や社会的地位から見て義務教育を越える教育の費用を負担することが相当と認められる場合には、費用の請求をすることができる、と例外の余地を示しています。親の収入が相当
あって余裕のある家庭ならば可能性アリという趣旨かと思われます。
その他に私立の学校に通う特段の必要性が立証できれば、養育費の上積みが期待できるかもしません。もっとも、みんなと一緒に公立の学校に進学したらいじめられそうだから等というような理由を主張したとしても、状況の切迫度によると思われます(他の公立校に通えるならば無理でしょう。)。
なお、学校の授業料とは別にかかる塾代等は、通常の学校とは切り離された、あくまでも私的な学習にかかる費用であり、授業料と違って不可欠なものではありません。したがって、お子さんに塾に通わせることを希望する親の責任で負担しなければならないので、塾代の存在を主張することはそもそも無意味です。
4 最後に
養育費に関しては審判に移行してしまうと、裁判所は原則的に標準算定方式に従って計算するので、学費の追加を求めてもなかなかシビアに判断される傾向があります。
現実的にはその前の段階、例えば、交渉や調停の中でお子さんの学費の話をうまく絡めて、一緒くたにまとめてしまうのがいいでしょう。「子供のためなら・・・・・・」とお財布の紐をゆるめてくれる親も少なからずいると思いますので、思い切って議題に挙げてみるといいかもしれません。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。